2009年12月30日水曜日

年の暮れ

恐れながら書くが、一人ではない時間が増えるというのは
ひとつの物事に対しての考え方が2つになるということである。
僕の考えと、もう一人の考え。
時にそれは同調を示し、また時には相反するものを生む。
たとえ自分と同じ価値観の人と意見を出し合っても
歌詞にあるように育って来た環境が違えばズレを生む。
ズレってきっと新しいものの創造に繋がる。
一人では行動に移さない事や発言しない事も多々ある。
二人だからやることもある。
1だとバランスが悪いけど2つになるとバランスが安定する。
そうなればいい。


29日。
遮光カーテンの隙間から覗く外の世界は青に染まっていて
まだ高い位置に太陽を上らせていた。
for mariaをステレオ装置で少し大きめの音でかけて朝が始まった。
冷蔵庫に入っていた野菜たちを鍋にぶち込んで作ったスープ。
寒いけれど窓を開けきって空気を入れ替えながらの掃除。
hanaが先日買った新しいデジタルカメラの試し撮り。
液晶のモニターの中では自然の光が肌を柔らかい白で染めていた。
各々が支度をして家をでた。
外には年末の大掃除で出された大量のゴミ。
先日までクリスマスカラーだった所に年始のお飾り。

東京駅は土産物を買う人たちでごった返していた。
hanaは妹と落ち合って新幹線の改札を抜けて行った。
二人とも乗車券を入れ違えてゲートが閉まるという同じ動きをしていて笑った。
同じ背丈の二人がそのうち寄り添って雑踏の中に消えて行く。
僕はしばらくその場所で手を振った。
二人の姿が見えなくなると僕もまた雑踏の中に消えた。

2009年12月28日月曜日

愛し合ってるかい?











写真の順番がアレですが。
気心の知れた方々と原宿のゆかりで飲んできました。
フリスビーは出来なかったけど
ピストの練習ができました。
結果的にスキッド?はできなかったけど。
そして今右足と右肩が筋肉痛ですけど。
良かった。ということにしましょう。

ゆかりでは5時近くから11時近くまで?飲んだのか。
んー。さすがに腹が出た。

昼間の代々木公園でどうやら流血事件があったみたいなんだけど
その事件の方がたまたま店にいて。
hanaさんとレジ前で話をしていたら
愛し合ってるかい?って聞かれた。ロカビリーな方に。
僕が見た限りでは、彼の愛し合ってるかい?は
到底清志郎には及ばない。説得力がなかった。

しかし昨日はたのしかったー。です。
みなさんまた来年。

2009年12月22日火曜日

訂正

マカロニグラタンじゃなくて
マカロニサラダだ。

★GIAという映画を見た。
ドラッグの恐ろしさを2時間に渡って鑑賞。
自我が無くなるって怖い事です。

2009年12月21日月曜日

マカロニ





大きめの鍋に水を張って、沸騰して来たら塩を少々。
乾燥したマカロニをそこへ投入し8分茹でる。
あらかじめ切っておいたキャベツを鍋にいれてマカロニとともに茹でる。
頃合いを見計らってザルにあげてオリーブオイルを垂らす。
人肌程度に冷ましたものを底の深い皿にあける。
コーンとシーチキン、ゆで卵をつぶしたものを入れて混ぜる。
マヨネーズと黒こしょうを適量いれる。
マカロニグラタンの完成である。

いやー
しかし冬は体の乾燥が半端ない。かゆすぎる。
静岡では、かじると言う。かくことを。

★日曜日
ツイッターって便利ですね。
たまたま集まった男4人で初台のhubで軽く飲む。
ICCで行われている展示を見ようというものだったのだけど
僕は結局展示を見ないままに、ただ飲むだけ飲んで中目黒へと行った。
友人がDJをするというので行ったのだが彼の出番が終わるとすぐにでた。

冬の風は服の隙間をめざとく見つけて入り込んでくる。
寒いですね。
今年も後10日ですが
1月1日になれば今年もあと364日ですねってなるだけのことよ。

2009年12月18日金曜日

piste二日目

先日某筋から購入したピスト先生にライドオンして街中を駆け抜けて来た。
とりあえずライトとカギを購入。
渋谷の駅前は押して歩きました。
まだあんなところ爆走できません。
そして運転しながら左足を入れる事ができなかったので
壁によりかかって左足を入れてから発車してますた。

広尾にある、といっても住所は南麻布でしたがフランス大使館に行ってきました。
そこは取り壊される大使館で、おばさんたちに「これなに?理解できないわ」
と言われるようなものをつくるアーティストさんたちに解放されていました。
僕もおばさんたち同様理解できませんでした。

その後アイフォンさんで、近くでなにかギャラリーはないかと思って探したら
近くにあったので行ってみました。エモンフォトギャラリーというところです
http://www.emoninc.com/
クリストファーバックローさんの写真の展示です。
これはよかった。実に。おすすめします。近くに用があったら是非行ってみて下さい。

この頃にはもう日は暮れていて、前と後ろにライトをつけてチカチカと光らせながら
明治通りを疾走してました。いや嘘です。そろそろと運転してました。
しかしあれですね。
ケツが痛い。

チャリを漕いでたら異様にチョコレートが食べたくなりました。
血糖値が下がったんでしょうか。
真っ先に家に帰りました。
そして家の前の直線道路で左足をペダルのアレに入れる練習をしました。
そして満足して家に帰ってチョコ食べました。一袋も。満足しました。
でもまたコンビニで100円のチョコレートを買いました。
寒かったから甘いものが欲しかったのだと推察します。
終わり。

2009年12月17日木曜日

ride on

今日自転車を買った。
以前、ツイッターで「どう考えてもチャリが欲しい」とつぶやいたら
友人が反応してくれて「当てがある」と言った。
そして今日、水曜日。
彼は僕に電話をくれた。自転車があるぞ。
2時に落ち合った。
目的の場所まで某党の諸悪の根源について話した。
japan is dead soon

目的の場所は明言できないが定価の半分でそれを譲ってくれた。
それはspecializedと言った。
メンテナンスをしてくれて、試乗してこけた。
それからは腰が引けつつ、押しつつ家まで運んだ。
一度友人の家に行き、パーツを交換した。
その後近くの気持悪いお好み焼きやに行ってご飯を食べた。

律儀な彼は、僕の家まで送ってくれた。
ピストは乗りたてが肝心なのである。きっと。
最初は判断力がないのでここを曲がるとか、スピードを落とせとかの指示をくれた。
実に助かった。

その後、彼は僕の家にあがりビールを飲んだ。
そして日本酒を熱燗にして飲んだ。
一本空いた。
そして彼は今毛布にくるまれて寝ている。
僕は日記を書いている。
そろそろ歯を磨こう。
明日からは自転車のある生活が待っている。
かなりわくわくすることをここに宣言しておこう。

2009年12月15日火曜日

病院

舌にしびれを感じる。
しばらくずっと吸っていなかった煙草を、このところ吸うようになったからだ。
始めは土産でもらった怪しげな煙草だったが、
その後HOPEを吸い、1ヶ月もしないうちに元々吸っていたCOOLに戻ってしまった。

久々に早く起きて、総合病院へと行った。皮膚科だ。
あらかじめ別の病院で紹介状をもらっていたのですぐに診察となった。
キングオブコメディの顔の面白い方みたいな先生だった。
足が小刻みに揺れていて、つまりは貧乏揺すりをしていた。
手術をするリストがちらっと見えたのだけれど
この世の中には手術しなくてはならない人で満ちあふれているようだった。

来年の始めに手術する事になった。
一応頭の手術だから、ということもあるのだろうけれど同意書にサインをした。
そして採血することになった。
採血場と書かれた場所に行くと、そこはまるで鶏の頭を切除する工場のように、
システマチックに効率的に血を採っていた。
透明な容器に、赤とは言えないどす黒い血が吸い込まれていくのを見る。
僕に順番が回って来て、台に手を置いて拳を軽く握る。
50歳近い看護婦の胸が、僕の握った拳の先に当たっている。
規定の量の血が吸い取られると手際よく針を抜き、消毒した。
5分は手で押さえて止血して下さいという。
しばらく老人たちにまぎれながら5分を過ごした。
そして時間が経過すると脱脂綿をゴミ箱に捨てた。
大量の血を見るよりも、赤い血の付いた脱脂綿がいくつも捨てられている様を見ると
軽く気持が悪くなった。

2009年12月11日金曜日

カメラ!カメラ!カメラ!

新宿に17時。
革ジャンに鋲を打ちまくった刈り上げ1号が、青いマフラーを巻き
白いレペットの靴を履いて現れた。
数分後、襟足刈り上げ2号がレイバンのサングラスをかけて改札を抜けてやってきた。
3人は仕事帰りの人並みを抜けて歌舞伎町の奥深くに進んでいく。

果たしてたどり着いた先は、一人がやっと通れるような狭い道で
ドラクエのパーティよろしく3人が1列に並んで進む。
入り口の横には、洗い物をする水場があった。
やけに声の小さい現地の方の案内で店の奥に進むと
60過ぎのおっさんたちがマニラだのドヴァイだのの話をして盛り上がっていた。
うちらはゆとりだからよー、と戦時中に生まれた生まれたであろうに
そんな話をしていた。

我々はチンタオビールで乾杯し、それからは場所に似合った話題に突入した。
女の子にはどんなパンツを履いて欲しいか。
詳しい内容は割愛する。性癖は個人を尊重されるべきなのである。

2時間飲んでも、まだ7時だ。
歌舞伎町を徘徊し、また別の店に入る。
1杯飲みきった頃に、仕事帰りのカメラマンがやってきた。
彼もまた革ジャンだった。
乾杯し直して飲み続ける。
自然と彼らは各々のカメラを取り出してバシバシと取り出した。
僕の愛機GRDは、自宅の玄関先で眠っていた。
所在無さげな僕を尻目に、カメラマンによるプチ講義が始まっていた。

何時間か飲んだ頃になって、昼間筋トレしまくって疲弊しきっていた一人が
テーブルに頭をつけて眠り始めた。
時折顔を上げてにこっと微笑みピースをみんなに送るとまた机に突っ伏すというのを
少なくとも5回は繰り返していただろう。

12時前になって、そろそろ帰りますかとなり
革ジャン黒パンツな二人は闇に消えていき
僕と眠り人は京王新線に乗って帰った。

次こそはカメラを持っていこう。

2009年12月10日木曜日

プラス

たとえばなにか一つの事が生活のなかに入り込んで来て
それが普通になってしまうと、1+1のままなのかもしれない。
そうなるまえに、自分が1以上になれば、それは2以上になりうるのか
とか思ったりしている。
もしかしたら、それは+とか2乗という概念ではなく
もっと人生に彩りを添えるものになりえるのかもしれない。

自分が1ですらない状態では他の要素が入って来ても
なにも変わらないかもしれない。
逆にその要素が入って来た事で化学反応を起こして
自分は数字では表せない存在にもなりうるかもしれない。
それは結局結果論というやつなんだけど。

恐らく人と言うのは数字で言うとかなり振れ幅のあるものだと思う。
こんなことを書くとメンヘラちっくなんだけれども
絶えず自分を流動的にしている部分を作らないといけないなと。
これは当たり前なのかもしれない。流動的というのは。
なぜなら環境が人を変える事も多分にあるから。
だったら自分の力で環境を変えなくてはいけない。
停滞していては五感が鈍る。

環境で変わる部分と、変わらないコアな部分。
その両方を確かに持っていきたい。

外は静かな状態で、一人for mariaを聴きながら
夜中のこの時間にふと自分を見つめ直す。
1226が楽しみであるなー。

2009年12月4日金曜日

2009年11月18日水曜日

六本木ヒルズクリニックとか大竹伸朗とかシューゴアーツとか清澄白河 

私の頭、具体的に言うと右頭頂部には1円玉くらいの大きさのしこりがある。
これは私が上京して1年が経過したころに出来た。
何の前触れも無くそれは私の頭に出来た。
壁に寄りかかると、丁度そのしこりの部分があたるのだった。

髪が短い時、目のいい人は僕のそれに気がついて「それはどうしたんだ?」と言ったが
合わせ鏡でもしないと確認ができない位置なのでなんとも返事ができなかった。
それから6年が経った。
いい加減邪魔だということで六本木ヒルズクリニックの皮膚科に行った。

皮膚科の先生はとても奇麗な女性でまつげが僕の4倍くらいあった。
診断書を書いてる時間も診察時間の4倍くらいだった。
結果的にここでは処置をできないと言われ(手術をする設備がない)紹介状を書くから
ということで違う病院へと行く事になったが、その予約がよりによって彼女の誕生日の
早朝となった。

その場を後にすると東麻布まで歩いて大竹伸朗の展示を見に行った。
貼り絵である。
ぶっ飛んでる。
同じものは二つとできないものだろう。
どこまで意志で作ってるんだろう。
どこで筆を置くんだろう。
思考回路は不明だった

その後清澄白河へと行った。
シューゴアーツなどのギャラリーが入ってる倉庫へ。
あの建物全体には名前が無いのか。
普通の会社も入ってるからか。
亀の交尾を10分くらい見る。

その後MOTへと行く。
相変わらず雨が降ってる。
MOTの前でバスが止まって、学生の集団が10人ほど降りた。
僕もその後を歩いていた。
バガボンドの井上雄彦氏のインスタレーションとでも言うのか。
7-8メートルくらいありそうな巨大な和紙に武蔵の絵が描かれていた。
印刷ではなく、直筆。リアルなそれだった。
それはnadiffに置かれていた映像で分かった。
恐ろしい程の忍耐とサポートが必要な作業である。

その後、ラグジュアリー展を見る。ギャルソンやマルジェラの服とともに
昔の西洋の服が展示されていた。
昔から違和感があるのだけど、服の展示はやはり好きになれない事がわかった。
オペラシティでやっていたアントワープ展も僕は好きではない。
というか立体の展示物がいまいちなのだと思われる。僕にとっては。

常設展も見る事が出来たので見る。
ロスコがあった。
川村記念美術館で見た事があったので、懐かしい気持になった。
やっぱあれはいい。


大竹伸朗に始まってかなりぶっとんだ作品に触れたので腹が減った、
ということで評判に聞く定食屋へと行く。
実用洋食七福さんである。
のれんに、とんかつと書いてあったので単品でそれと、チャーハンを食べる。
未だかつてそのような組み合わせで食べた事はなかったが。
めちゃうまであった。
ふたつで1070円。
コストパフォーマンスは最強である。
定食にするとみそ汁もつくようだった。
隣のテーブルの人のみそ汁ばかうまそうだった。

満腹になって帰った。
しかし帰りの千代田線はかなり異臭がした。
これからは雨の日の午後7時の千代田線なんぞに乗るものか。

2009年11月13日金曜日

2009年11月7日土曜日

大きな勘違いと自動車免許実技合格

そもそも私は勘違いをしていたらしい。
思い込んでいたらしい。
実技が合格すれば学科試験が行われると。
そして晴れて合格すれば卒業式となって免許が交付されるのだと。
んなことはなかった。

学科の試験があると勘違いしていたので。
朝の7時に起きて(そんな必要は無いのに)勉強して
10時に家をでて教習所へ行き勉強をし(そんな必要はやっぱりないのに)
13時まで教習所のサイトで勉強(95問の問題を5セット)

13時半から試験の説明
30分ぐらい説明を受けたが、仮免同様、僕は乗車一番だった。
自主経路というのが嫌だった。
順路を覚えるもの。前回の路上で失敗した事を踏まえて覚え方を変えた。

いざ試験。
最初は教官の指示に従うものだったけど
てんぱってしまった。
普通にやってた発進の手順が踏めず。
ドアロックもせず。
左折はやっぱり膨らんで。
でもそれ以外は普通にいけたか。

所内に戻って右方向転換はちょっときれいではなかったけど、まあ出来た。
結果は果たして合格であった。
すぐに学科が始まるのかと思いきや、そういえば以前情熱大陸で蒼井優がでたとき
試験場で免許交付されてたなって思い出し。
まさか今日はやらないのか!って当たり前の事をそのとき初めて知った。
というか自分が勝手に思ってただけ。
そしてアイフォンでネットして調べた結果平日しか試験を実施してないことも判明した。

僕はそのとき今日は飲みに行こうって決めた。
そして渋谷凹に行き、ビールを飲みピザを食べロングアイランドアイスティを2杯飲んで
爆音でブランキージェットシティを聴いて帰った。

痛いぜ。自分。

2009年10月29日木曜日

小田急線



寝起きの、会話として成立してないようなつぶやきのようなものだった。
それは睡眠の延長線上にあるもので、実体をともなわなず
ただ浮遊するだけの言葉のはずだった。
しかし、hanaはそれを約束されたものとして捉えていたようだった。

丸いテーブルを囲んで遅めの朝食を食べている時の事だった。
「これから小田急線に乗って知らない町にいこうよ」hanaが言った。
「え?」と僕は味の薄いコーヒーを飲みながら言った。
「この前言っていたでしょう?小田急線、各駅停車に乗って
どこか知らない町に行こうって。それを実行するのよ」hanaが言った。
「でも今日は雨が降ってるよ、どうせ遠くに出かけるんだったら
もっと天気のいい日にしたほうがいいんじゃない?」僕は言った。
「傘をさせばいいでしょう、雨の日に外を歩くのもいいものよ」hanaが言った。
「そういうものかな」と僕は言った。
それほど嫌だという気持ちはなかった。
雨の日に二人が知らない遠くの土地に出かける、面白そうじゃないか。
「じゃあご飯をさっさと食べちゃおう、ぐずぐずしてるとお昼になっちゃうからね」
僕はコップに少しだけ残っていたコーヒーを一口で飲み干した。

それぞれが支度をして、家をでたのは午前11時の事だった。
「寒いね」明るい配色の傘をさしながらhanaは言った。
「そうだね、冬がもうすぐそこまで来ているんだ」僕は言った。
工事をしている山手通りは車の通行を鈍らせていて、
車の運転手は気だるそうに煙草を吸って信号を見ていた。
そんな雑踏を抜けて閑静な住宅街に入る。
こじんまりとした、けれど店主の趣向が一目で分かるような店が
住宅と住宅の間にひっそりと居をかまえている。
店先には『closed』の看板が下げられている。まだ午前11時なのだ。

住宅街を抜けると代々木上原駅に着いた。
suicaを使って改札を抜けてホームに行くと、そこで初めてどこへ行くのか
という話がなされた。
「小田原に行こう」hanaが言った。
僕はそれに同意して、各駅停車ではなく急行電車に乗った。
小田急線に乗ると、ある地点から田園風景が続くようになる。
僕はそれを眺めるのが好きだった。今回は隣にhanaがいる。
普段とはどこか違って見える風景をバックにして、
僕はhanaをカメラのファインダーの中に納めた。

12時を回りしばらくすると小田原駅に到着した。
空気の密度が東京とは違うように感じる。寒さは変わらないのだけれど
小田原の方が、東京に比べて寒さがリアルなのだ。自然が作り出したリアルな温度だ。
雨は相変わらず降っていた。傘をさしながら歩いていると
雰囲気のいいイタリア料理の店を見つけた。
「ここでご飯を食べましょう」とhanaは言って木製のドアを開けて中に入った。
僕もそれに続いた。hanaは奥の椅子に腰掛けて、着ていた薄手のコートを脱いだ。
中年の女性がメニューと水を持ってテーブルにやってきた。
ランチのセットを頼むと、その女性は厨房に向かってイタリア語で注文を告げていた。
僕たちの他に2組の客がいた。一組はひっそりと話をしていたが、
もう一組の、おそらくは夫婦であるが、
対岸の人に向かってるかのように女性の方が大きな声で話をしていた。
男性はただ頷くだけであった。

シチュー、サラダ、ライス、牛肉と順番に運ばれてきて、
僕はそれを順序よく胃の中に入れていった。非常においしい料理だった。
最後に砂糖多めのコーヒーを飲んだ。
会計を済ませて外に出る時も、対岸の男性に話しかける女性の声が
雨の音に混ざって聞こえた。男性の声はやはり聞こえなかった。

僕たちは小田原城へと歩みを進めていった。
城は駅近くにあった。城を囲んでお堀があり、
城内に入るための赤い橋が雨で白くかすんだ中で静かに浮かんでいた。
入場料を払って中に入ると、戦国時代の甲冑や刀が
巨大なしゃちほこなどとともに並んでいた。
天守閣には土産物屋があった。威厳もなにもない天守閣だった。

城を後にすると、海まで歩く事にした。
地図を頼りに歩いて行くと、風に乗って潮の香りがするようになった。
「海が近くなって来たね」hanaは言った。
国道が海よりも高い位置にあって防波堤の役割をしていた。
その道路の下の一部に小さなトンネルがあって、その先に海が見えた。
それはまるで額縁に入れられた絵のように見えた。
トンネルの暗がりを抜けていくと人がまるでいない広い海があった。
小さく控えめに作られた階段を降りて浜辺に降り立った。
細かく波が立ち、右前方にはカモメの大群が身を寄せあって羽を休めていた。
カモメの世界にも彼らの秩序がありそこで生きているのだと思った。

あまりにも巨大で静かな海だった。
まるで手つかずの生まれたばかりのような海だった。
僕たちは口数も少なくただただ遠くを見ていた。
海の向こうはかすんでいて何も見えなかった。
このような海は今まで見た事が無かった。
「もう行こうか」と僕は言ってその場を後にした。
ふと振り返ってみるとカモメはまだ羽を休めていた。
彼らはこれからどこまで飛んでいくのだろう。
僕の知らない風景を彼らは見るのだろうか。
彼らの秩序は保たれ続けるのだろうか。
僕たちは僕たちの世界へ、傘をさして戻っていった。

sketch












2009年10月14日水曜日

gray

「『gray』ってどういう意味だっけ?」
僕の隣に座っていたhanaが言った。
hanaは僕のiphoneの液晶をタップしていた。
「どれどれ?」僕は液晶を覗き込んだ。
そこには英単語を覚えるためのアプリが表示されていた。
「grayってグレーって色でしょう?」と僕は言った。
「そっか、あまり英語でgrayって見ないから違う単語かと思った」と言ってhanaは笑った。
午後になる前、食後のお茶を飲んでいる時の事だった。

その後、お互い別の用事があってその場で別れた。
僕は目的地に向かう為に小田急線に乗った。
午後の日差しは雲に隠れる事無く地面を照りつけていて
僕は屋根のあるホームのベンチに腰掛けて、
レールの上を漂う秋の日差しを見るとも無く見ていた。
やがて駅員のアナウンスとともに各駅停車の電車がホームに到着した。
乗車客はまばらだった。
僕は鞄から一冊の本を取り出し、ipodを使って坂本龍一の新譜を聴いた。
イヤホンから静かに流れるピアノの音色、ページをめくる乾いた音、電車のノイズ。
そんなものが僕の周りを包んでいた。

その時、ふと頭の中でなにかがよぎった。
なんだろう。注意深く、その反応の元を探る。
そして一つの事に思い至った。
僕が読んでいた本の文章中に「グレー」という言葉が使われていたのだった。
「そうか、これか」僕は不思議な高揚感を覚えた。
二人で話した「グレー」を別の事柄で僕がなぞる事によって、
二人だけの秘密をも共有したような気持になった。

日常にありふれた時間の、たわいもない会話の中のたった一つの単語。
ただそれだけのことなのに、僕の中でそれは二人で共有した物として
捉えるようになっていた。
きっとまた明日、たわいもない話をするだろう。
その時に交わした言葉、単語の一つ一つが次につながる。
そういった、ものを共有していく事が二人の土台を作っていくのだろう。
少なくとも僕は、そう思う。

hanaはgrayの事を覚えてるだろうか。

2009年10月8日木曜日

nonfiction

クリーニング屋のドアを開けると、カウンターには
誰もいなかった

ただカウンターの向こうの大きな洗濯機が大きな音を立てて回っていた

すいませーん
と何度声をかけても返事はない
くるくると回る洗濯機の音にかき消されてしまう

どうしたものか
目の前の棚には僕の名前が書かれた伝票のついたシャツが見える
よっぽど伝票をカウンターに置いて持っていこうかと思ったけど
タイミング悪くなったら強盗に見られるだろうと思いやめた

ふと足下を見ると、亀がいた

微動だにしない亀

ただのオブジェかと思っていたら
いきなり首が動き出した

生きてる!
亀の放し飼いかよ
しかも下手すりゃ踏まれる位置で

僕は必要以上に戸惑い
一度店の外に逃げ出した

そして、裏に回れないかと思い見回したが
塀に囲まれているので、正面からしか入れない

もう一度ドアを開けて入り、声をかける
すいませーん

この言葉を叫び始めてもう5分は経過した

なす術も無く立ち尽くしていると
普通におばさんが、すーっと現れて
僕の伝票を受け取って棚から僕のシャツを見つけ出し
渡してくれた

僕はありがとうございます
と言って外に出た

心なしか亀も頭を下げたように見えた

fiction

クリーニング屋のドアを開けるとそこには新聞を読んでいる亀がいた

僕は戸惑った
僕はただ、日曜日に着るための白いシャツを
クリーニング屋に出していて
それをピックアップしにいっただけなのだ

亀は何も言わなかった
ただそこに佇んで新聞を読み
甲羅のなかに首を引っ込めたり出したりしている

僕は冷静さを失って一度ドアを閉じた
そして、そこが確かにクリーニング屋であることを確認した
「間違いない、確かに僕はここに白いシャツを出した。
そして250円払ったはずだ。人間に」

深呼吸をして、もう一度ドアを開ける

「いらっしゃいませ」
亀が喋った

僕は言う
「こんにちは、亀さん」

現実を飲み込まないと先に進まないという事は
世の中にたくさんあるのだ

「シャツを引き取りに来た長橋です」
と伝え、伝票を渡した

亀さんは甲羅から足を伸ばせる限り伸ばして伝票を受け取った

僕の目の前の棚には「長橋」と書かれた伝票が貼られた
白いシャツが見えている

亀さんはゆっくりとした動きで振り返り
棚を探し始める

5分が過ぎた

実にゆっくりしている
僕はよっぽどカウンターを乗り越えて
「これが僕のです」と言おうかと思った
しかし、亀さんの自主性を重んじるべきではとも思う

また5分が経過した
亀さんは、見当違いの棚を探している
僕は言う
「亀さん、あなたは遠くばかりを見ている。
もっと近くを見た方がいいってウサギさんが言ってるよ」

亀さんは言う
「ウサギさんほど信じられない者はいないよ。
僕は僕が思ったように動くんだ。」

僕は瞬間的に思う
そういえばサメさんも騙していたっけな、うさぎさんは

やはり僕は見守る事にする
亀さんには亀さんのやり方があるのだ

しばらくすると亀さんは、僕の伝票を見直した
どうやら僕のシャツを発見したようだった

「お待たせしました、ながはしさん、あなたのシャツはこれですね」
亀さんは自分の力で目的のものを見つける事ができた

「亀さんありがとう、これを着て僕は結婚式に行くよ」

「そうですか、おめでたいですね、よい結婚式を」

亀さんはそういうと、新聞紙を広げ直し
ガソリンの値上げの記事を見て唸っていた

僕はドアを開けて日常に戻った

ウサギさんが目の前を通り過ぎていた

oneday

僕がその店のドアを開けたとき
席の大半が埋まっていた

レジにも数人の客が並んでいて
店員が忙しなく注文を受けていた

レジに立っていたのは
控えめに言っても、かなりかわいい女の子だった
おそらく大学生でアルバイトなのだろうと思う

僕の番になり、
茄子とベーコンのパスタを注文した

「お飲物はいかがですか?セットにしますと
サラダもついてお得です」
店員のかわいい女の子は控えめに、
しかし確実に注文をとる声で言った

「いや、いいです」
僕は言う
そんなことに惑わされてはいけないのだ

空いてるテーブル席が無かったために
レジの横にあるカウンターの席に座る事になった
そして、料理が出てくるまで
「パン屋再襲撃」を読む事にした


iPodは使っていなかった
レジでの受け答えの声がずっと聞こえた

「◯◯をお願いします」
汗の張り付いたシャツを着たサラリーマンのおじさんが言う

「お飲物はいかがですか?セットにしますと
サラダがついてお得です」
甘い声が仕事に疲れたおじさんを襲う、いや、癒す

おじさんは
「お願いします」と
若干上ずった声で返事をしていた


その後、ずっとそれが繰り返されていた
ものの見事に、おじさんたちはサラダのセットを注文し
1000円近くをランチ代に払っていた
これで恐らく、本日の煙草代は消えただろう

僕はそんなおじさんたちを横目に、
パスタを平らげ、
水を飲んだ

そして思う
あぁコーヒーが飲みたい、と
最初からおじさんたちと同じようにセットにして
女の子の営業的スマイルを受け取り
アイスコーヒーを頼めば良かったのだ
そしてサラダも食べ、栄養バランスを
整えて食事をするべきだったのだ
店員の女の子はきっとそこまで考えて
セットを勧めていたのだ
おそらく きっと そうだろう

隣にあるレジを見てみる
しかしそこには違う女の子が立っていた

091007

店「お電話ありがとうございます、◯×△でございます」
私「コンタクトレンズの注文をしたいのですが」
店「はい、ありがとうございます、お手元にポイントカードはお持ちでしょうか」
私「はい」

私「番号を言ってもいいですか?」
店「お願いします」
私「××××-××××」
店「長橋様ですね?いつもありがとうございます」
私「はい」

私「一箱お願いしたいんですが、在庫があれば」
店「在庫はございます、いつご来店されますか?」
私「今日中には伺います」
店「分かりました、ありがとうございます、ご用意してお待ちしております」

来店

店A「いらっしゃいませこんにちはー」
 店B「いらっしゃいませこんにちはー」
  店C「いらっしゃいませこんにちはー」

私「……」
店「本日はどのようなご用件でしょうか?」
私「先ほど電話でコンタクトレンズの注文をした者なんですが」
そういってポイントカードを渡す。
店「そちらでおかけになってお待ちください」

店内は掘建て小屋のようなところ。壁などまさに取ってつけたようなものだった。
店員がかけている眼鏡は、高校生が身につけるハイブランドバッグよりも
もっと根本的なところで似合ってなかった。
待ち時間、iphoneをいじっていると掘建て小屋のドアが開いて
白衣姿にサンダルの男が現れた。
ドアを開けたがすぐにまたドアの向こう側に戻っていった。
白衣にはサンダルだろ、という暗黙のOKというのはいかがなものだろうか。
ただ緊張感のない構図にしか見えなかった。

店員はもう一人の客の接客をしていた。おぼつかない手つきでクレジットカードを触り
ミスタッチし、もう一度暗証番号を押させていた。

店「長橋様、お待たせいたしました、こちら6.00でよろしかったでしょうか」
私「はい」
店「ご一緒に、目薬な…」
私「結構です」
店「失礼しました、ではお会計7980円になります」
私「ではこちらで」
店「では20円のお返しになります。領収書は袋の中にお入れしておきます」
私「お世話様でした」
店A「ありがとうございましたー」
 店B「ありがとうございましたー」
  店C「ありがとうございましたー」

活字にするとすごくスムーズなようにも見えるんだけど、
かなり会話のキャッチボールがうまくいかなかった。
大丈夫かなあの店。

2009年10月6日火曜日

20091006

















平日昼下がりの小田急線の乗客はどこか緩慢な雰囲気がしている。

目の前に座っていたのは、腹回りにかなりの量の肉をつけた中年女性で
買い物袋を膝の上に乗せて、居眠りをしていた。
しかし車両が揺れる度、自分の腹が揺れる度に荷物もまた揺れる。
何度も体勢を立て直しては、決して深くはないであろう眠りについていた。

左の方を見てみると、手ぬぐいを巻いた缶を持って新聞紙を読んでいる高年の男性がいた。
手ぬぐいで隠していても、それがビールである事は自明の理だった。
いや、もしくは発泡酒かもしれない。そこまでは分からない。
とにかく昼下がりの小田急線はシエスタのようだ。
そしてそれに乗っている僕の姿も、傍目から見れば同じように弛緩したものに違いない。
目的地が急行の停車駅であるにも関わらず、下北沢で乗り換えなかった事自体が実に緩い。

成城学園前駅で降りる。
駅から少し歩いたところに、自動車教習所の送迎バスの停留所がある。
数分待っていると小型のバスがやってきて、僕を含めた3人が乗車した。
一人は大学生風の男で、プーマのジャージをセットアップで着ていた。
もう一人は薄いピンクの帽子をかぶった中年の女性だった。
そんな3人を乗せて、バスは教習所へと向かう。

バスに乗る度に思うのだけれど、バスの運転手というのはかなりの確率で禿げている。
都バスでも、送迎のバスでもそうだ。とにかく禿げ、もしくはそれに準ずるものが多い。
帽子をかぶるからなのだろうか。
それが理由だとしたら、そこに不服を申し立てたりしないのだろうか。
帽子の着用の義務を撤廃するよう組合に提出しないのだろうか。
もしくは、自然と禿げあがった人が集まっているのかもしれない。
こればかりはやはり分からない。世の中は分からない事で満ちている。

15分程で教習所に到着し、運転手にお礼を言って下車する。
建物内に入ると受付で入校の申し込みをする。
「フリーター」と「フリーランス」実際のところ、
僕にはどちらだって同じ事なのだけれど。職業の欄にはフリーランスと記入する。
相手に少しでも印象はよくしておいた方がいいであろう。
30歳手前ぐらいの女性が僕の応対をしてくれる。
手の爪にマニキュアなどの装飾はなし。
シンプルな指輪が左手薬指にそっとはめられていた。
免許ローンを組もうとするが、フリーランスという項目で審査に引っかかるだろう
とのことで、全額を現金で支払う事になった。仕方のないことである。

いくつかの書類にサインをし、スケジュールの説明を受ける。
11月の前半には免許を取得できるであろうとのことだった。
次回の登校日に必要な書類を持ってきてください、という説明を最後に手続きは終了した。

送迎バスが発車しようとしているところを捕まえて乗車する。
久々に机に向かって勉強をすることになるのだなと感傷に浸っていると、
筆箱の不在に気がついた。
学生を終えてから、いつの間にか筆箱が無くなっていたのだった。
バスを降りて小田急線に乗り込むと新宿で筆記用具を買う事にした。

時刻は既に夕方になっていて、昼下がりの緩慢な雰囲気はどこかに消えていた。
新宿の駅ビル内にあるお洒落を気取ったステーショナリーショップに入る。
北欧風で揃えればいいのか、とも思うがここはなにも考えずに
マリメッコのポーチと、ドイツ製のシャープペンシルと消しゴム、赤と青のペンを買った。
新しい事を始める時の、新しい道具を揃えるウキウキする感覚というのは
年齢がいくつになっても変わらない。
仕事を終えた人たちにさりげなく交じって、僕はまた小田急線の改札を抜けていった。

Let's play music with me

004

イカ星人は操縦席から離れると、飛ばされないように機体の外に出た。
そして4次元で繋がっている大きなフープを機体の底部に取り付けた。
「外に出るとほんとに汚染されてるのがよく分かる、最悪だ」
イカ星人は、目に涙を溜めて言ったが涙は風に吹かれて飛んでいった。
機内に戻ったイカ星人は席に腰を下ろして言った。
「さっさとやって帰ろう」
イカ星人が4次元フープのスイッチを入れると、機体は静かに揺れた。
そして何かを吸い込むような音が鳴り始めた。
「俺この音嫌いなんだよね。あんたの言葉を借りて言うならば、
『非常に摩耗する』よ。聞いてるだけでね。」タコ星人は言った。

☆☆☆

テレビカメラは謎の飛行物体の姿をずっと捉えていた。
現場にいたレポーターは興奮した面持ちで、細かな唾をまき散らしながら
状況を伝えていた。なぜかヘルメットを装着していた。
「こちら現場の海野です。5分ほど前からでしょうか、謎の飛行物体は
千代田区上空で停止したままの状態です。望遠カメラを使っても
細部まで捉えることはできませんが、なにやら赤い物体が動いてるようです。例えるならタコのような形をしています。生物のようです。」

特別番組を放送しているスタジオでは、映像からクリップした画像を
スクリーンいっぱいに拡大して映していた。
どこそこの大学教授は「やはり地球外生命体というのは存在していたんだ。
今日という日が歴史に刻まれるのは間違いのないことです。
ここまではっきりと映像として、全国民に見知されたことはいくら
NASAであってもごまかせない事でしょう」と言った。
「なにかしらの生命体が存在したということは分かりましたが、
一体何が目的だと言うんですか?」
ギャラに見合う分の発言をするコメンテーターは言った。
「そんなことは分かりません。なにせ相手とは会話ができないのですから」
と教授は言ってテーブルの上に置かれていたエビアンをコップに
注いで飲んだ。

「ここで視聴者からのファックスをご紹介しましょう。まずはこちらですね…。えー新宿区にお住まいの恋するウサギさんです。『みんな大好きだ!』見事な達筆で書かれてますが、かなり情緒が不安定なようですね。
なんの告白なんでしょうか」冷静に司会者は言った。司会者には
冗談は通じなかった。
「もう一通ご紹介しましょう。こちらはお住まいは書かれてませんが
ジョンさんですね、『WAR IS OVER IF YOU WANT IT』。
でもきっとあの生命体には英語で言っても通じないでしょうね」
やはり司会者は冷静だった。夢がなかった。

「えーなにか動きがあった模様です。現場を呼んでみましょう、
海野さん? 状況を伝えて下さい」

「えーこちら現場の海野です。先ほどから上空からかすかですが音が
聞こえ始めました。それがだんだんと大きくなってきているようです。
えーなんとも叙情的なメロディのようにも聞こえます。
撮影スタッフの顔色が段々悲痛なものになってきました。」
レポーターの声もだんだんとしりつぼみになっていった。
一体なにが起きているというのだ。

☆☆☆

「もっとパワー上げてくれよ」タコ星人は言った。
「僕はこういったメロディが好きなんだよ、でも仕方ないか、
僕もいつまでもここにはいたくないからね」イカ星人はそう言ってパワーを
一気に上げた。するとメロディも一気に大きくなって機体が揺れだした。
そして小さな塵がフープに引き寄せられてきた。しばらくすると段々と
形のあるものが吸い込まれて行った。紙くずや生ゴミ、
土に埋まったビニール袋。古タイヤ。捨てられたラブレター。
海に浮かんだ油ボールまでが吸い込まれて行った。
不要だと思われるものが全て吸い取られて行った。
紛争が起こっている地域から兵器も吸い込まれた。
弾道ミサイルは発射された方向とは逆へ飛んで行った。
それらは全て不要なものだった。
時々人間も吸い込まれた。
「ん? なんか今生命体の反応があったけど、どうしたんだ?」
タコ星人は言った。
「不要なんだろ? この星にとっては」イカ星人はレーダーを見つめて
言った。腐敗しきった国の政治家だった。
「これはまだまだ時間かかるね。どうやら6500万年の間に
ここの生物たちはいらないものをかなり蓄えたらしい」

☆☆☆

人々は立ちすくんでいた。自分の周りから様々なものが空中に向かって飛んで行ってしまったのだから。
渋谷の街に落ちていた煙草の吸い殻一本一本も、側溝に捨てられた
空き缶もメロディに乗ってフープの中へと消えて行った。
街を歩いていた人々全ての動きは止まっていた。みんなが空を見上げていた。
空中に飛んで行ったゴミは、やがて一つの線となって空高く舞いあがった。
その線は、メロディに乗ってフープの中へ消えて行った。
カメラはそんな姿を捉え続けていた。スタジオにもその映像は
流れていたが、誰一人として言葉を発しなかった。
ギャラに見合う分の発言をするコメンテーターですらも何も言わなかった。ディレクターはCMを入れる事すら忘れていた。
モニターに映されていた映像は、段々と吸い込まれて行く量が減っていった事を伝えていた。しばらくするとまた赤い物体が現れ、消えた。

☆☆☆

「終わったよ。フープも外したし、もう帰ろうぜ」タコ星人は掃除の概要を日誌に書き付けながら言った。
日誌には前回に地球を掃除した時の事も書かれていた。そこには当時不要とされた「恐竜」と書かれていた。タコ星人は操縦席に座るとハンドルを手に取って機体を動かした。



しばらくしてからイカ星人は言った。
「でもきっとまた、この星に来る事になるんだろうね」

2009年10月5日月曜日

2009100×

友人の引っ越しの手伝いをするためにhanaと湯島へ行った。
総武線で御茶ノ水まで行き、教えられた住所をiphoneのグーグルマップへ打ちこむ。
現在地と目的地が線で引かれ、その道筋に沿って僕たちは歩いた。

おそらく昔は違う名前で呼ばれていたであろう狭い道を歩いていくと、
数分後目的地へとたどり着いた。
まだそこには友人は到着しておらず、
まだ高い位置にある太陽の光をしばらく体に浴びていた。

唐突にクラクションが鳴る。
そちらに振り向くと、キャラバンの助手席で煙草を吸っている友人の姿を認めた。
運転手は、この友人の引っ越しを3回も手伝っている男であった。
僕たちは挨拶もそこそこに、エレベータなしの5階の部屋までの階段を
何度も往復する事になった。
難儀だったのは、彼が絵描きであることにあった。
洗濯機やテレビ等と言った家電製品がない代わりに
画集や、写真集などの重量のあるものが多くあった。
それに加えて、サイズの大きい真っ白なキャンバスもあって
狭い踊り場で何度も切り返しては階段を上ることとなった。
時折、汗が額を濡らし、グレーのTシャツの首元には黒い染みを作っていた。

何度目かの往復を終えると、キャラバンに積まれていた荷物は奇麗に片付き、
全てのものが無事に新しい部屋に運ばれた。
細かな片付けは友人にまかせ、僕は開かれた段ボールの上にあったカズオイシグロの
「夜想曲集」をベランダに足を投げ出しながら読んだ。

日は傾き始めていた。
開かれた窓からは少し冷たい風が入るようになっていた。
友人が新宿に買い出しに行くというのでhanaとついて行った。
助手席にはもちろん煙草を吸う友人が座った。
新宿で一通りの買い物を済ませると、荷物を家まで運び
キャラバンをレンタカーショップに返却した。
そして居酒屋で夕食を取った。

友人二人が途中で合流し、6人での食事となった。
注文した酒はあっという間にそれぞれの胃の中に納められていった。
それとともに会話の内容はエスカレートしていって
テーブルの下でhanaの手を握っては、大丈夫だよと言うのであった。

酒に、会話に酔ったhanaを自宅まで送る。
タクシーの運転手にはきびきびとした声で行き先を告げていた。
それでもまっすぐに前を見つめるその視線は揺れていて
僕はその目が閉じるまでそばにいようと思った。

alva notoを聴きながら

2009年10月3日土曜日

2009年10月2日金曜日

20091002

一人の布団で静かに目を覚ました。
昨日の深酒で頭にうっすらともやがかかっているようだ。
10時半に目を覚ます必要はないのだけど、切り忘れた携帯電話のアラームが執拗に鳴っていたのでそれを止めた。

テレビもラジオもない部屋では、iMacから流れる音楽だけが沈黙を埋めてくれる。
先日買った坂本龍一のピアノツアーアルバムの「hibari」の音色が、雨で沈んだ空気にしっとりなじむ。
布団の中でiphoneを使ってツイッターを見る。

布団をでると冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してそれを直接飲んだ。
冷たい液体が内蔵に染み込んで行く。

しばらくインターネットでニュースをチェックしてから軽く食事をとる。
食べ終わると食器を洗い、身支度を整えて家をでた。

iPodとiphoneと財布を持って、山手通りを歩く。
小田急線に乗り込むと、目の前に座っていたのはワンカップ酒を片手に持ったまま寝ている浮浪者だった。中身がまだ残っているそのワンカップを器用に持っている。
危機管理能力がある人間だったなら、その場から離れるだろう。
しかし僕はそれがこぼれる事を少し期待して、その場に腰をすえた。
新宿駅についてもその浮浪者は起きる事がなかった。僕はホームに降りた。

西口にあるユニクロに行くと、30人ばかりの列が出来ていた。
その列に僕も並んだ。20分ほど待つと店内に入る事ができた。
ほとんど商品からMサイズが消えていた。
一通りの商品を見終わると、なにも買う事無く店を出た。
取り立てて欲しいものがなかった。

フラッグスの中にある無印良品で下着を買い、南口のユニクロで靴下とバスタオルを買った。
そして歩いて家まで帰った。
夕方の甲州街道は、学生で溢れていた。6年前には僕もそこにいた。
そう思うと、不思議だった。
6年前の僕とは逆方向に歩いて行く。


家に着くと、カレーを作った。
BGMはクラムボンにした。
小さな炊飯器でご飯を2合炊く。
変形したまな板で、じゃがいもとキャベツとタマネギと、ガーリックを切った。
厚手の鍋にオリーブオイルを入れ、温まってきたころにガーリックを入れる。
じゃがいもを入れしばらく炒める。色がほんのり変わると
タマネギをいれしんなりするまで炒める。キャベツも入れる。

しばらく炒めて水を入れる。そして煮立ってきたら灰汁をとり、
固形のコンソメとしょうゆを少し入れる。
カレーのルーを2種類入れて弱火で煮続けた。

数分後、カレーが出来上がりご飯も炊きあがった。
白いご飯を皿に盛って、茶色のカレーを隣に添えた。
なかなかいい出来のカレーだった。
部屋にはカレーの匂いが漂っていて、だれかの到着を待っている。
外はまだしっとりとした雨の匂いがしている。

2009年3月12日木曜日

003


その日、日本列島上空において、未確認飛行物体が確認された。

北は北海道、南は沖縄まで実に様々な地域でその存在を誇示するかのように

物体はゆっくりと飛行していた。

それはOLがカーディガンを肩にかけ、財布を小脇に抱えて

「今日何にする?」と対して仲もよくない同僚と昼食の話をする時刻のことであった。


サングラスをかけた唯一無二の司会者の番組は中止になり

その飛行物体を特集した特別番組が急遽放送された。

こういった時にしか需要がないどこそこ大学の教授は

とっておきのスーツに身を包み、それでも白衣を羽織って

得意げに、雄弁に語っていた。

「これは非常事態です。謎の飛行物体の目的は計り知ることもできませんが

これははるか昔に予言された未知の生物の襲来です、つまり人類の滅亡を表します。

逃げも隠れもできない。神に祈ってももはや仕方の無い事なのです。」

なんの解決にもならないことをどこそこの教授は言った。

全く場違いなのにも関わらず急遽招集されたコメンテーターは

それに対して、ギャランティに見合う分だけの返答をした。

「まだそうとは言い切れませんよ。謎の飛行物体がこちらになんのアクションも起こしていない、

なにか要求があるのか、この星を破壊しにきたのか。不確定要素の多い中で不安をあおるのは

いかがなものでしょうか」


中身がなく、ただの焼き直し的内容の情報が伝えられて行く。

過去にあった未確認飛行物体の映像から、ネッシーまで。

そしてこの非常事態に総理大臣は沖縄でゴルフをしているとまで伝えた。

こんな時でさえ、報道は総理大臣の支持率を下げる事しか考えられないらしい。

非常事態だと言うのに。



☆☆☆



「ったく、やってらんないよ」

銀河系の中でも1.2を争うほど汚染された地球を掃除する事を言い渡されたタコ星人は言った。

「いちいちそういうことを言うな。言葉にすると余計に嫌になる」

タコ星人とともに、宿題を3日連続で忘れた罰として地球を掃除する事を言い渡されたイカ星人は言った。

「でもさ、よりによって地球だぜ? この前掃除したのは

たったの6500万年前のことなのになんでもうこんなに汚いんだよ?」

タコ星人は吸盤で器用にハンドルを握り運転をしながら言った。

「下等な生物は、極限まで自分を追い込まないと自分の状況を判断できないんだ。

これは仕方の無い事なんだよ。その存在を認めないと話は進まないんだ」

イカ星人はうんざりした口調で言った。

「へっ、そんなに偉そうに言うけど、お前だって宿題忘れたんだろ?」

タコ星人は少しむっとした口調で言った。

「君と一緒にするなよ、僕の場合はそれを宿題としてやる意味が理解できなかったからだ。

分かりきっている事を、宿題として教師に提出しなくてはならないのは僕にとって実に摩耗する作業なんだ」

こんなやりとりがずっと続いている。


タコ星人は、ふれくされたように横を向き、特に汚染された日本を見て言った。

「こいつらなんでこんな中で暮らす事が出来るんだ? 俺には理解できないよ」

イカ星人はその発言を無視して「さっさと始めよう。こんな所にいるとこっちの気分まで悪くなりそうだ」と言って

掃除に取りかかるための準備をした。



続く

(オリジナルはたしか星しんいちあたりがかいているきがします)


002

鞄の中に入れてあったiPodを取り出すと、 
イヤホンを耳に装着した。 
「シャッフル」機能を選択し、しばらくすると 
crown city rockersの「what you wanna do?」とディスプレイに表示された。 
悪くない。 
さぁ、仕事に行くぞという気持ちのときに、「君がいないと何にもできないわけじゃない」と 
曲がりくねった表現の歌を聴きたくない。 
誰だってそう思う。 

駅に通じる商店街を歩いていくと、こじんまりとした八百屋がある。 
40歳くらいの夫婦と、そのどちらかの母親らしき女性と、 
3人が店頭に並んでいる。3人がいるとその店はとても窮屈そうに見える。 
僕が店の前を通り過ぎると、店員の男性が電話でだれかと話しをしている声が聞こえた。 
「あと一年がんばれよ、こっちもがんばるから」 
大きな音量で音楽を聴いてないにしても、イヤホン越しに聞こえる声だった。 
どこか地方に進学した息子だか娘が留年してしまい、 
親に連絡を取ったのだろうと僕は推測した。 
それでも、と思う。 
昼の12時に言うことなのであろうか。 
まだ始まったばかりの1日は、その電話によって影を落とされたに違いない。 
せめて夕飯を食べて、食後のお茶を飲んでいる午後8時に 
してあげるべきだったのだ。 

太陽の光があたる道を抜けて駅へと入った。 
急行電車に乗ると、客が一人降りて端の座席が空いた。 
神経質そうな顔をした女性が反対の座席から、 
誰にもゆずらないぞという姿勢でその席に座った。 
僕はその向かいの席に(この席も一番端の席)に座った。ゆっくりと。 
そしてハードカバーの本を鞄から取り出して、つかの間の読書を楽しんだ。 
左手にコーヒーがあったら完璧だった。 

目的の駅に着くと、甲高い声をあげて話しをしている女子高生の集団とすれ違う。 
駅前でチラシを配っている人をかわして職場へと向かった。

001

仕事を終えて家に帰ると、郵便ポストに大きな包みが雑に入れられていた。 
その場で中身を確認することはせず、それを口にくわえると、 
鞄からカギを取り出した。 
マークジェイコブスのキーホルダーにつけられたカギを 
ドアノブに差し込みドアを開けると、 
仕事に行く前に炊いていたクンバのお香の香りが、 
主張しすぎない程度に部屋を包んでいた。 

狭い玄関で靴を脱ぎ、木製の丸い皿にカギを入れる。 
鞄を置いて、口にくわえ続けていた封筒をテーブルに乱暴に置く。 
差し出し人は母親だった。 
やれやれ、また見合い写真だ 


進学とともに上京し、既に7年が経った。 
服飾の専門学校を卒業してからずっと、同じデザイン事務所で働いている。 
実家には毎年、季節の変わり目に顔を出すようにしている。 
結婚について、とやかく言うような親ではなかったが、 
以前、友達夫婦が赤ちゃんを連れて実家を訪れたとき、 
母はその子を抱いてそっとつぶやいた。 
「かわいいねぇ」 
直接的な言葉ではなかったが、私の心にはひっかかるものがあった。 
孫が欲しいのだろうと。 
しかし結婚についての話題が食卓で並ぶようなことはなかった。 
私も、その事は日々の雑事に飲まれ記憶の片隅からも消えていた。 
そんな出来事から季節が一度変わった。 


夏のある日の夕暮れ、家の郵便ポストを見ると、 
A4サイズくらいの封筒が入っていた。 
少し厚みのあるその封筒の差出人の欄には母親の名前が書かれていた。 
先日電話をした時には、なにかを送るようなことは言ってなかったのだけど。 
部屋に戻ってそれを開けると中にはドラマなどで見たことのある体裁の 
見合い写真が入っていた。 
しばらくこの事態をうまく飲み込めないでいたが、 
きっちりと折られた便せんがそれには挟まれていた。 

「あなたは早いと思うかもしれないけれど、そろそろ真剣に 
考えてもいい頃かと思います。 
いつまでも自分に酔っている場合ではありませんよ」 

それだけ書かれた文章を、一度はさっと、二度目はじっくりと読んだ。 
三度目にそれを読んだ時、これは見合い写真であり、 
私は母親から結婚を勧められているのだということを理解した。 
理解したが自分にこういったものをなぜ送ってくるのか納得ができなかった。 
私はすぐに携帯電話のリダイヤルで母親に電話をかけた。 
5回目のコールで繋がった。 
「今日写真が送られてきたけど、あれはどういうこと?」 
「便せんを読まなかったの?久々にあんな文を書いたから疲れちゃったよ」 
相変わらず母親との電話は友達との会話のようだ。 
「私にはそんな気はないよ。」 
「だから、そろそろ、と書いたでしょ、今すぐにと言ってる訳じゃないよ」 
なんとなく母親のペースで話しが進められていることに気がついた私は 
適当に話しを終わらせて電話を切った。 

私は母親にあまり隠し事をしない。今までの恋愛の事もすべて把握している。 
私は感情が顔に出やすい。そして母親はそんな私の表情を 
読むのが非常にうまい。 
その結果、好むと好まざるとに関わらず、母親は私を把握しているのだった。 
しかし干渉はしなかった。それが私と母親の良好な関係を築けた理由である。 
それなのに、見合い写真を送ってきたのだ。 
母親は本気で孫を欲しがっていた。 


なかなか捨てることのできない見合い写真が、無印良品の本棚に4冊も入っている。 
4つとも、一度中身を見ただけでそこに押し込んだままだ。 
見ず知らずの人の写真を燃えるゴミとして捨てられるほど、私は礼儀知らずではなかった。 
しかし今日、5冊目がそこにいれられることになった。 
6冊目が送られてくる前に、新しい恋人を見つけよう、私はそう思った。 
私の本棚が知らない人の写真で埋め尽くされる前に。 
季節が変わる前に。