2009年10月6日火曜日

004

イカ星人は操縦席から離れると、飛ばされないように機体の外に出た。
そして4次元で繋がっている大きなフープを機体の底部に取り付けた。
「外に出るとほんとに汚染されてるのがよく分かる、最悪だ」
イカ星人は、目に涙を溜めて言ったが涙は風に吹かれて飛んでいった。
機内に戻ったイカ星人は席に腰を下ろして言った。
「さっさとやって帰ろう」
イカ星人が4次元フープのスイッチを入れると、機体は静かに揺れた。
そして何かを吸い込むような音が鳴り始めた。
「俺この音嫌いなんだよね。あんたの言葉を借りて言うならば、
『非常に摩耗する』よ。聞いてるだけでね。」タコ星人は言った。

☆☆☆

テレビカメラは謎の飛行物体の姿をずっと捉えていた。
現場にいたレポーターは興奮した面持ちで、細かな唾をまき散らしながら
状況を伝えていた。なぜかヘルメットを装着していた。
「こちら現場の海野です。5分ほど前からでしょうか、謎の飛行物体は
千代田区上空で停止したままの状態です。望遠カメラを使っても
細部まで捉えることはできませんが、なにやら赤い物体が動いてるようです。例えるならタコのような形をしています。生物のようです。」

特別番組を放送しているスタジオでは、映像からクリップした画像を
スクリーンいっぱいに拡大して映していた。
どこそこの大学教授は「やはり地球外生命体というのは存在していたんだ。
今日という日が歴史に刻まれるのは間違いのないことです。
ここまではっきりと映像として、全国民に見知されたことはいくら
NASAであってもごまかせない事でしょう」と言った。
「なにかしらの生命体が存在したということは分かりましたが、
一体何が目的だと言うんですか?」
ギャラに見合う分の発言をするコメンテーターは言った。
「そんなことは分かりません。なにせ相手とは会話ができないのですから」
と教授は言ってテーブルの上に置かれていたエビアンをコップに
注いで飲んだ。

「ここで視聴者からのファックスをご紹介しましょう。まずはこちらですね…。えー新宿区にお住まいの恋するウサギさんです。『みんな大好きだ!』見事な達筆で書かれてますが、かなり情緒が不安定なようですね。
なんの告白なんでしょうか」冷静に司会者は言った。司会者には
冗談は通じなかった。
「もう一通ご紹介しましょう。こちらはお住まいは書かれてませんが
ジョンさんですね、『WAR IS OVER IF YOU WANT IT』。
でもきっとあの生命体には英語で言っても通じないでしょうね」
やはり司会者は冷静だった。夢がなかった。

「えーなにか動きがあった模様です。現場を呼んでみましょう、
海野さん? 状況を伝えて下さい」

「えーこちら現場の海野です。先ほどから上空からかすかですが音が
聞こえ始めました。それがだんだんと大きくなってきているようです。
えーなんとも叙情的なメロディのようにも聞こえます。
撮影スタッフの顔色が段々悲痛なものになってきました。」
レポーターの声もだんだんとしりつぼみになっていった。
一体なにが起きているというのだ。

☆☆☆

「もっとパワー上げてくれよ」タコ星人は言った。
「僕はこういったメロディが好きなんだよ、でも仕方ないか、
僕もいつまでもここにはいたくないからね」イカ星人はそう言ってパワーを
一気に上げた。するとメロディも一気に大きくなって機体が揺れだした。
そして小さな塵がフープに引き寄せられてきた。しばらくすると段々と
形のあるものが吸い込まれて行った。紙くずや生ゴミ、
土に埋まったビニール袋。古タイヤ。捨てられたラブレター。
海に浮かんだ油ボールまでが吸い込まれて行った。
不要だと思われるものが全て吸い取られて行った。
紛争が起こっている地域から兵器も吸い込まれた。
弾道ミサイルは発射された方向とは逆へ飛んで行った。
それらは全て不要なものだった。
時々人間も吸い込まれた。
「ん? なんか今生命体の反応があったけど、どうしたんだ?」
タコ星人は言った。
「不要なんだろ? この星にとっては」イカ星人はレーダーを見つめて
言った。腐敗しきった国の政治家だった。
「これはまだまだ時間かかるね。どうやら6500万年の間に
ここの生物たちはいらないものをかなり蓄えたらしい」

☆☆☆

人々は立ちすくんでいた。自分の周りから様々なものが空中に向かって飛んで行ってしまったのだから。
渋谷の街に落ちていた煙草の吸い殻一本一本も、側溝に捨てられた
空き缶もメロディに乗ってフープの中へと消えて行った。
街を歩いていた人々全ての動きは止まっていた。みんなが空を見上げていた。
空中に飛んで行ったゴミは、やがて一つの線となって空高く舞いあがった。
その線は、メロディに乗ってフープの中へ消えて行った。
カメラはそんな姿を捉え続けていた。スタジオにもその映像は
流れていたが、誰一人として言葉を発しなかった。
ギャラに見合う分の発言をするコメンテーターですらも何も言わなかった。ディレクターはCMを入れる事すら忘れていた。
モニターに映されていた映像は、段々と吸い込まれて行く量が減っていった事を伝えていた。しばらくするとまた赤い物体が現れ、消えた。

☆☆☆

「終わったよ。フープも外したし、もう帰ろうぜ」タコ星人は掃除の概要を日誌に書き付けながら言った。
日誌には前回に地球を掃除した時の事も書かれていた。そこには当時不要とされた「恐竜」と書かれていた。タコ星人は操縦席に座るとハンドルを手に取って機体を動かした。



しばらくしてからイカ星人は言った。
「でもきっとまた、この星に来る事になるんだろうね」

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