2009年10月14日水曜日

gray

「『gray』ってどういう意味だっけ?」
僕の隣に座っていたhanaが言った。
hanaは僕のiphoneの液晶をタップしていた。
「どれどれ?」僕は液晶を覗き込んだ。
そこには英単語を覚えるためのアプリが表示されていた。
「grayってグレーって色でしょう?」と僕は言った。
「そっか、あまり英語でgrayって見ないから違う単語かと思った」と言ってhanaは笑った。
午後になる前、食後のお茶を飲んでいる時の事だった。

その後、お互い別の用事があってその場で別れた。
僕は目的地に向かう為に小田急線に乗った。
午後の日差しは雲に隠れる事無く地面を照りつけていて
僕は屋根のあるホームのベンチに腰掛けて、
レールの上を漂う秋の日差しを見るとも無く見ていた。
やがて駅員のアナウンスとともに各駅停車の電車がホームに到着した。
乗車客はまばらだった。
僕は鞄から一冊の本を取り出し、ipodを使って坂本龍一の新譜を聴いた。
イヤホンから静かに流れるピアノの音色、ページをめくる乾いた音、電車のノイズ。
そんなものが僕の周りを包んでいた。

その時、ふと頭の中でなにかがよぎった。
なんだろう。注意深く、その反応の元を探る。
そして一つの事に思い至った。
僕が読んでいた本の文章中に「グレー」という言葉が使われていたのだった。
「そうか、これか」僕は不思議な高揚感を覚えた。
二人で話した「グレー」を別の事柄で僕がなぞる事によって、
二人だけの秘密をも共有したような気持になった。

日常にありふれた時間の、たわいもない会話の中のたった一つの単語。
ただそれだけのことなのに、僕の中でそれは二人で共有した物として
捉えるようになっていた。
きっとまた明日、たわいもない話をするだろう。
その時に交わした言葉、単語の一つ一つが次につながる。
そういった、ものを共有していく事が二人の土台を作っていくのだろう。
少なくとも僕は、そう思う。

hanaはgrayの事を覚えてるだろうか。

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