2009年3月12日木曜日

002

鞄の中に入れてあったiPodを取り出すと、 
イヤホンを耳に装着した。 
「シャッフル」機能を選択し、しばらくすると 
crown city rockersの「what you wanna do?」とディスプレイに表示された。 
悪くない。 
さぁ、仕事に行くぞという気持ちのときに、「君がいないと何にもできないわけじゃない」と 
曲がりくねった表現の歌を聴きたくない。 
誰だってそう思う。 

駅に通じる商店街を歩いていくと、こじんまりとした八百屋がある。 
40歳くらいの夫婦と、そのどちらかの母親らしき女性と、 
3人が店頭に並んでいる。3人がいるとその店はとても窮屈そうに見える。 
僕が店の前を通り過ぎると、店員の男性が電話でだれかと話しをしている声が聞こえた。 
「あと一年がんばれよ、こっちもがんばるから」 
大きな音量で音楽を聴いてないにしても、イヤホン越しに聞こえる声だった。 
どこか地方に進学した息子だか娘が留年してしまい、 
親に連絡を取ったのだろうと僕は推測した。 
それでも、と思う。 
昼の12時に言うことなのであろうか。 
まだ始まったばかりの1日は、その電話によって影を落とされたに違いない。 
せめて夕飯を食べて、食後のお茶を飲んでいる午後8時に 
してあげるべきだったのだ。 

太陽の光があたる道を抜けて駅へと入った。 
急行電車に乗ると、客が一人降りて端の座席が空いた。 
神経質そうな顔をした女性が反対の座席から、 
誰にもゆずらないぞという姿勢でその席に座った。 
僕はその向かいの席に(この席も一番端の席)に座った。ゆっくりと。 
そしてハードカバーの本を鞄から取り出して、つかの間の読書を楽しんだ。 
左手にコーヒーがあったら完璧だった。 

目的の駅に着くと、甲高い声をあげて話しをしている女子高生の集団とすれ違う。 
駅前でチラシを配っている人をかわして職場へと向かった。

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