2009年10月6日火曜日

20091006

















平日昼下がりの小田急線の乗客はどこか緩慢な雰囲気がしている。

目の前に座っていたのは、腹回りにかなりの量の肉をつけた中年女性で
買い物袋を膝の上に乗せて、居眠りをしていた。
しかし車両が揺れる度、自分の腹が揺れる度に荷物もまた揺れる。
何度も体勢を立て直しては、決して深くはないであろう眠りについていた。

左の方を見てみると、手ぬぐいを巻いた缶を持って新聞紙を読んでいる高年の男性がいた。
手ぬぐいで隠していても、それがビールである事は自明の理だった。
いや、もしくは発泡酒かもしれない。そこまでは分からない。
とにかく昼下がりの小田急線はシエスタのようだ。
そしてそれに乗っている僕の姿も、傍目から見れば同じように弛緩したものに違いない。
目的地が急行の停車駅であるにも関わらず、下北沢で乗り換えなかった事自体が実に緩い。

成城学園前駅で降りる。
駅から少し歩いたところに、自動車教習所の送迎バスの停留所がある。
数分待っていると小型のバスがやってきて、僕を含めた3人が乗車した。
一人は大学生風の男で、プーマのジャージをセットアップで着ていた。
もう一人は薄いピンクの帽子をかぶった中年の女性だった。
そんな3人を乗せて、バスは教習所へと向かう。

バスに乗る度に思うのだけれど、バスの運転手というのはかなりの確率で禿げている。
都バスでも、送迎のバスでもそうだ。とにかく禿げ、もしくはそれに準ずるものが多い。
帽子をかぶるからなのだろうか。
それが理由だとしたら、そこに不服を申し立てたりしないのだろうか。
帽子の着用の義務を撤廃するよう組合に提出しないのだろうか。
もしくは、自然と禿げあがった人が集まっているのかもしれない。
こればかりはやはり分からない。世の中は分からない事で満ちている。

15分程で教習所に到着し、運転手にお礼を言って下車する。
建物内に入ると受付で入校の申し込みをする。
「フリーター」と「フリーランス」実際のところ、
僕にはどちらだって同じ事なのだけれど。職業の欄にはフリーランスと記入する。
相手に少しでも印象はよくしておいた方がいいであろう。
30歳手前ぐらいの女性が僕の応対をしてくれる。
手の爪にマニキュアなどの装飾はなし。
シンプルな指輪が左手薬指にそっとはめられていた。
免許ローンを組もうとするが、フリーランスという項目で審査に引っかかるだろう
とのことで、全額を現金で支払う事になった。仕方のないことである。

いくつかの書類にサインをし、スケジュールの説明を受ける。
11月の前半には免許を取得できるであろうとのことだった。
次回の登校日に必要な書類を持ってきてください、という説明を最後に手続きは終了した。

送迎バスが発車しようとしているところを捕まえて乗車する。
久々に机に向かって勉強をすることになるのだなと感傷に浸っていると、
筆箱の不在に気がついた。
学生を終えてから、いつの間にか筆箱が無くなっていたのだった。
バスを降りて小田急線に乗り込むと新宿で筆記用具を買う事にした。

時刻は既に夕方になっていて、昼下がりの緩慢な雰囲気はどこかに消えていた。
新宿の駅ビル内にあるお洒落を気取ったステーショナリーショップに入る。
北欧風で揃えればいいのか、とも思うがここはなにも考えずに
マリメッコのポーチと、ドイツ製のシャープペンシルと消しゴム、赤と青のペンを買った。
新しい事を始める時の、新しい道具を揃えるウキウキする感覚というのは
年齢がいくつになっても変わらない。
仕事を終えた人たちにさりげなく交じって、僕はまた小田急線の改札を抜けていった。

0 件のコメント: