クリーニング屋のドアを開けるとそこには新聞を読んでいる亀がいた
僕は戸惑った
僕はただ、日曜日に着るための白いシャツを
クリーニング屋に出していて
それをピックアップしにいっただけなのだ
亀は何も言わなかった
ただそこに佇んで新聞を読み
甲羅のなかに首を引っ込めたり出したりしている
僕は冷静さを失って一度ドアを閉じた
そして、そこが確かにクリーニング屋であることを確認した
「間違いない、確かに僕はここに白いシャツを出した。
そして250円払ったはずだ。人間に」
深呼吸をして、もう一度ドアを開ける
「いらっしゃいませ」
亀が喋った
僕は言う
「こんにちは、亀さん」
現実を飲み込まないと先に進まないという事は
世の中にたくさんあるのだ
「シャツを引き取りに来た長橋です」
と伝え、伝票を渡した
亀さんは甲羅から足を伸ばせる限り伸ばして伝票を受け取った
僕の目の前の棚には「長橋」と書かれた伝票が貼られた
白いシャツが見えている
亀さんはゆっくりとした動きで振り返り
棚を探し始める
5分が過ぎた
実にゆっくりしている
僕はよっぽどカウンターを乗り越えて
「これが僕のです」と言おうかと思った
しかし、亀さんの自主性を重んじるべきではとも思う
また5分が経過した
亀さんは、見当違いの棚を探している
僕は言う
「亀さん、あなたは遠くばかりを見ている。
もっと近くを見た方がいいってウサギさんが言ってるよ」
亀さんは言う
「ウサギさんほど信じられない者はいないよ。
僕は僕が思ったように動くんだ。」
僕は瞬間的に思う
そういえばサメさんも騙していたっけな、うさぎさんは
やはり僕は見守る事にする
亀さんには亀さんのやり方があるのだ
しばらくすると亀さんは、僕の伝票を見直した
どうやら僕のシャツを発見したようだった
「お待たせしました、ながはしさん、あなたのシャツはこれですね」
亀さんは自分の力で目的のものを見つける事ができた
「亀さんありがとう、これを着て僕は結婚式に行くよ」
「そうですか、おめでたいですね、よい結婚式を」
亀さんはそういうと、新聞紙を広げ直し
ガソリンの値上げの記事を見て唸っていた
僕はドアを開けて日常に戻った
ウサギさんが目の前を通り過ぎていた
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