某日、都内某所。
6年前に買ったギャルソンのジャケット、ワイズの極太なスーツパンツ。一歩間違えたら大阪のおばちゃんが着てそうな柄のニットを勝負服に選び面接に臨んだ。ドアベルを鳴らすと一人の男性が顔を出した。「本日面接の機会をいただきました長橋と申します」「ああ、どうぞ」とその人は言い、促されて部屋に入った。室内は30平米ほどの広さで自然光が入って明るく、窓の外には青山霊園の緑が見える。おそらくTRUCKの大きなテーブル。椅子は6脚。テーブルの横には画材が並んでいた。
電話を受けていたADと他に2人も席に着いた。同時に僕も椅子に座る。お茶の入った洒落たカップが僕の前に出された。前日送っていた僕の書類がテーブルに並び面接がスタートした。
「今いくつなの?」
「この前26歳になりました」
「へー前職は◯◯かー、こういうの大変でしょ?情報いっぱい詰め込んでさ」
「確かにそうですね。でも慣れましたね。」
「俺も前に××のADをやってたけどさ編集と喧嘩したもんだよ、余白の美とかないもんね」
こういった感じで話は進んだ。笑いも含んでいて僕の緊張感もちょうどいい具合だった。
ポートフォリオとは別に、自己紹介のための小冊子を作っていた。ADはそれをめくりながら「これ店で印刷したんだ?お金かかったでしょう?」と言った。「いえ、でもポートフォリオだけじゃ伝わらない部分もあると思いまして…」と僕は言った。すると「B型なんだ?」とADは言った。小冊子の中に「静岡生まれのB型」という見出しがあったのだった。「あ、そうなんです」と僕が言うと「うちはB型はとらないようにしてるんだよねー」と愕然とすることを言われた。「書類送られて来た時に『あ、この人B型だ』って言ってたんだよ」言葉を失う僕。
「でもB型っぽくないよね」とADは言った。僕はここをたぐり寄せるしか無いと思い「そうなんですよ、A型っぽいねって言われます。母親がABで父親がOなんで限りなくA型寄りのB型なんだと思います…」と苦し紛れの言葉を紡いだ。それから「俺は何型で父親が何型で…」という話が続いた。
その後「どうして仕事を辞めたのか」とか「フリーで働くつもりは無かったのか」とかを聞かれた。志望動機などは聞かれず「◯◯に住んでたら自転車で通える距離だね」などの話をした。なにか質問があれば聞きますと言われたので、デザインをした現物を見せてもらったり。実際に採用になった場合どのような仕事を担当する事になるのかを聞いた。気がついたら1時間経っていた。
「来週には返事をいたしますので」と言われ、お礼を言って部屋から出るとすれ違いで次の面接者が部屋に入って行った。
僕は思いのたけをすべて出し切り体温が上がっていた。近くにあった喫煙所で煙草を吸うと、1時間前とは少し気分が違った状態になっていた。
1週間後、1通のメールが来て僕はニートじゃなくなった。
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