深夜の出産劇から、タクシーに乗って自宅に帰った。結局4時くらいに寝たんだと思う。頭が妙に冴えてるのに体がついていかないといったふうだ。僕たちの木曜日がようやく終わった。
寝たのも朝方ではあるけれど、起きたのも朝方だった。6時前に母親からの電話が鳴ったのである。やはりマナーモードは解除してあったので、フル音量で着信したのであった。
僕は昨夜、「帝王切開になった、今タクシーにのって病院に向かっている」というメールを母親に送ったきり、そのあと連絡をしていなかったから、それを朝起きて見て、びっくりして電話をしてきたのだと思われた。
ことの顛末を寝ぼけながら話をした。それに納得したのかどうかはわからないけれど、花さんもれいちゃんも無事ということは理解したようだ。
電話を切ったあと、再び眠ることはできなかった。人に話したことによって、あれは現実だったんだなと改めて実感したところもある。
しばらくすると、理子がうなされて起きた。エアコンが切れて部屋が暑くなったこともあるし、おそらく昨夜の様々な出来事がフラッシュバックしたのだと思われる。うなされながらママ、ママと叫んでいた。
エアコンをつけるとまたすーっと眠ったのだけど、体がとても熱い。昨日体調が悪そうだったこともあり、また起きたタイミングで午前中の間に小児科に行くことにした。
午後には僕の両親が来ることになっていたので、布団の準備をしたり、掃除をした。そのうち理子は起きてきたのだけど、機嫌が悪い。
「朝ごはんはなにを食べる?」と聞くと、「いらない」と思春期の輩みたいなことを言う。「パンにチョコレート塗る?」と言っても「いらない、お茶漬けがいい」と言う。
あいにくご飯のストックはなかったので、早炊きモードでご飯を炊くことにした。
炊けるまでの間、プリキュアの録画を見ているとだんだん機嫌が直ってきた。
30分後くらいにご飯が炊け、いざお茶漬けを出しても案の定食べない。
半分も食べずに「もういらない」という。仕方がないのでもうご飯を食べさせるのは諦めて自分が食べた。茶碗のなかでアンパンマンの顔がむなしく浮かんでいる。濡れてちゃ力も出ないだろう。
11時半頃ベビーカーで小児科まで行った。12時に閉まるので道を急いだ。
焼けるようなアスファルト。ベビーカーで感じる気温は大人以上だと思われる。
小児科に着くと患者は誰もおらず、診察券を出すとすぐに診察室に通された。
診てもらってもとくに特化して悪いところもなく、ホクナリンテープと、熱をさますシロップを処方してもらった。
向かいの薬局で薬を受け取り、駅前のスーパーで買い物をして帰った。
焼きそばを作って食べると、支度をしてママのいる病院へと向かった。早くママのところに行きたいと理子がいうのだった。
しかしいざバスで向かおうとすると、理子は歩かなかった。そして抱っこしてバスを待っている間に眠ってしまった。やはり体が疲弊しているようだ。
16キロの体を抱っこし、バスから降りると、炎天下の中日陰のない道を歩いた。
病院に入ると受付をし、手の消毒をした。待合室にいた人たちが一斉にこちらを見ている視線を感じた。1階が診察室で2階が入院している部屋だったので、階段を上がるのだけど背中にも視線を感じる。待合室にいる人たちはこれから産む人達なわけで、興味深かったのかと思われる。
花さんの部屋に入る。れいちゃんが透明なケースのなかですやすやと寝ている。
昨夜は暗がりの部屋の中でしか姿を見ていなかった。改めて明るい部屋の中で対面すると、出産してまだ10時間程度しか経っていないため、まだ皮膚が赤紫といったふう。
「れいちゃん、パパだよ、お姉ちゃんもいるよ」などと声を掛ける。
花さんは少しは眠ることができているようで、元気そうだった。
しかしながら一月前くらいから続いている手足のむくみはまだ解消されていない。
昨夜は看護師さんに手渡された、という形で抱っこをしただけだったので、ベッドに寝ているれいちゃんを改めて抱っこすることにした。
しかし4年近く前のあの感覚はもう忘れてしまった。なにもかもおぼつかないぎこちなさだった。本当に2児の父なのか?といった感じだった。
その後16時過ぎに、僕の両親がやってきた。彼らにとっては5人目の孫である。しかも全員女なのだ。
父親はビデオカメラで記録することをやめ、ソニーのデジカメで5人目を記録している。
映像は編集しないといけないから、またカメラ自体が重いからだという。
僕も記録する。こうやって家族が集まって無事に新しい家族を迎えられることを幸せに思う。
花さんが疲れてしまう前に帰ることにする。
両親は車で来ていたので、車で家まで帰り、家の近所の串カツ田中でご飯をたべた。この店の客層は家族づれが多く、安心してくることができる。最近全席禁煙になったのもうれしい限りだった。
久々に居酒屋に行き、両親と酒を飲みながら過ごせるというのもいいものだった。
家に帰ると理子はばあばとお風呂に入り、ばあばと寝た。
僕にとっても、理子にとっても、もちろん花さんにとっても、ものすごく長い長い1日が終わった。
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