2017年5月26日金曜日

旅行記 ハローグッドバイ編

熱帯モンスーン気候のバリでは、植物は大きく育ち、また色が濃く眩しく見えた。花もいたるところに色濃く咲いた。
宿泊している部屋の扉の脇には、小さなテーブルセットが置かれていた。そこにはガラス瓶が置かれていて、毎日新しい花が飾られていた。部屋からレストランへと向かうアプローチには、高い木に咲いた花が落ちていて、それが実にいい香りを醸していた。現地の人が耳に花を飾っているのをよく見かけたので、僕もそんな白い花の一つを拾って理子の耳につけてあげた。花が生活に密接しているというのはやはり気分がよいものだった。

最後の朝食を食べる。最後はやはりミーゴレンだった。

部屋に戻って荷造りをする。トランクの一つは、ほぼ理子のオムツで埋まっていたのだけど、日が経つにつれて当然それらは減って、代わりにお土産がそこに収納された。
昨夜コンビニで買った瓶ビールは、栓抜きがなかったという致命的且つ、よくありがちな理由によって飲めなかったため、タオルに包んでスーツケースに仕舞った。
僕はサロンをすっかりと気に入ってしまったので、ズボンではなくそれを巻いた。そんな姿を見て花さんは「本当にそれで飛行機に乗るのかい?」と言って笑っていた。

すっかりと荷物が片付けられると、ホテルのフロントに電話をして荷物を運んでもらうことにした。それまでの間、カメラを適当なところに置いて3人で記念撮影をした。
理子は花さんの旅用のカリマーのリュックサックをすっかりと気に入ってしまい、その小さな体で背負っていてとてもかわいらしかった。親のすることを真似したくなるのだろう。
僕はポーターが来る前に、海を見に行くことにした。初めてここに来たときに見た、門の扉の向こうに広がったあの海をもう一度目に焼き付けたかった。小道には白い花が落ちていて、やはりいい匂いがしていた。

フロントで花さんはチェックアウト手続きをしていた。本当に素晴らしい経験だったとコンシェルジュに伝えると、「またオカネを貯めて来てくださいね」と流暢な日本語で話した。

施設が近代的なわけではないけれど、丁寧に手入れされ、また宿泊客もその部屋を大切にしたくなるような、そんな雰囲気がある。外に置かれた像には苔が生えていて、それもまた時間の経過を感じさせるものだったし、ただ宿泊するだけではないこの空間が素晴らしかった。また泊まりに来たいと思えるホテルに出会ったのはこれが初めてのことだ。

tandjung sari hotel
またいつかここに来たい。それをコンシェルジュに伝えると、彼は微笑んでそれに答えた。
配車してもらったタクシーで空港へと向かう。その道すがら、大きな通りの交差点に巨大な石像があるのが見えた。「大きな交差点には事故が起きないように魔除けとして石像が置かれているんだ」とマラートが教えてくれたのを思い出した。初めて訪れた国で思い出となったものたちが車窓を流れていく。



シンガポールはどんな国なんだろう?
シンガポール・チャンギ空港行きの飛行機は定刻に飛び立った。



16時近くになり、無事にシンガポールへと到着した。
空港からすでにバリとは違う趣がある。近代的である。ある一角には蝶々が飼育されている場所があり、理子は蝶々を追いかけて走り回っていた。
入国審査を済ませ、荷物を受け取ると、まずは空港内にある両替所で円をシンガポールドルに両替する。バリとは違って、安心してお金を受け取ることができた。そして予約してあるgoodwood hotelへとタクシーで向かった。
シンガポールはその歴史や地域性から様々な人種が居住しているらしかった。僕の認識としては、黄色人種が多いのかと思っていたのだけど、マレー人やらインド人などもいた。ある時僕はいったいどの国にいるんだろう?と思ったくらいだった。この異国感はトルコに行った時と似ていた。

シンガポールは電車内や歩きながらの飲食が禁止されていたり、つばを吐いてはならないなど、大人としては常識的なことから、少し気をつけないといけないことまで様々なことが禁止されている。逆に言えば、街は清潔そうに見えた。

ホテルに着くとチェックインをしポーターによって部屋まで案内された。ポーターは僕を見るなり、「その腰に巻いたものはなんだ?」ということを聞いてきた。
「サロンだ」と答えると、そのポーターはものすごく喜んだ。彼はマレー人であり、サロンにとても馴染みがあるから、ということらしい。どうやら意図せず掴みはばっちりだったようだった。
フロントとは別棟に部屋はあり、ゴルフ場にでもありそうな小型の4輪車で移動した。案内された部屋は5階でルームキーはカードだった。タンジュンサリとは全く異なる。あそこは南京錠だった。
部屋の構成はメゾネット式になっていて、まず上階にベッドがあり、下階にはソファセットや書物テーブル、キッチンスペースにトイレシャワールームがあった。床はヘリンボーンで好みの内装だった。
シンガポールではチップは不要だった。実にシンプルだ。


すこし休憩してから、街へと繰り出すことにした。ホテルを出ると数分で近代ビルが乱立するエリアだった。高級ブティックや高島屋などのデパートもあった。多くの人で溢れていて、そしてファッションに気を使っている人たちが多く見られる。
A・マックイーンのウィンドウディスプレーは日本では受けが悪そうなルックで飾られていた。どうやらとっても金持ち向けのイケイケなものだった。
歩きながらの飲食は禁止されているけれど、喫煙はグレーらしい。その辺に腰掛けてテイクアウトしたものを食べ、タバコを吸うという姿をよく見かけた。
テイクアウトしたコーヒーなどの飲料は、そのまま持っていると歩きながらの飲食とみなされてしまうからなのか、日本では見かけることのない、それ専用のビニール袋で仕舞われていた。


デパートの中華屋で食事をとることにした。メニューを見ると、リストにチェックして店員に渡す仕組みだった。色々な言語を有する国だからこのような仕組みを取っているのかもしれない。金曜日だったこともあって店はとても混んでいた。僕たちはチャーハンや空芯菜の炒め物などを選びリストをチェックした。ビールは恐ろしく高い値段が設定されていた。デパート価格なのかと思いきや、この後に訪れるどの店でもビールは総じて高額だった。そういったわけでコンビニで買ったものを部屋で飲むことが多かった。ちなみに夜10時以降はアルコール類を購入することはできない。


僕は久々の人の多さに酔ったのか、はたまたバリというゆるやかなタイムラインに慣れ過ぎてしまったのか、体調が思わしくなかった。どうやら理子も落ち着きがなく、全てを食べきる前に店を出てしまった。理子はお腹を下していて、トイレに駆け込むと便がオムツからはみだして大洪水を起こしていた。異国の地でトイレで格闘する羽目となった。


花さんが今回の旅をプランニングする際に、バリからシンガポールなのか、シンガポールからバリなのかを悩んでいた。バリから東京に戻った際に果たしてスムーズに気持ちを切り替えられるのか?ということを気にしていたわけだが、バリからシンガポールの時点ですでに現代社会にヤられてしまっていたようだ。
シンガポールはソフトバンクのCMでおなじみとなった、ビルの上に船を模した巨大プールを建設するような国である。
都会の洗礼を受けたことにうなだれる僕は、コンビニで買ったタイガービールを部屋で飲んで喉を潤すのだった。

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