台風が本州に上陸し、その大きな爪痕を西日本に残していることを
ネットのニュースで知った。
僕たちは新幹線で新青森駅まで向かっているところだった。
打ち付ける雨は横殴りで、窓の向こうに見える景色は白かった。
僕にとっては初めての、HANAにとっては20年ぶりの北海道上陸であった。
新青森駅から電車を乗り換えて青函トンネルで函館へ。
青函トンネルは言わずもがな海中トンネルである。
僕のイメージでは、水族館のようにガラス張りになっていて、
海に囲まれながら電車が走っている、
といった子供が思い描くようなことを少し想像していた。
といった子供が思い描くようなことを少し想像していた。
いや、青函トンネルに入る直前まではそれが事実だとも。
トンネルに入る瞬間には、地上と海水の境が分かるものだと思っていたし、
すごく感動する、なにせ海中トンネルなのだから。
しかし、実際は普通のトンネルだった。
電光掲示板で「青函トンネルに入りました」というアナウンスがあっただけだ。
僕はそれまで窓にかじりついて外を見ていたのだけど、視線を下に落とし、
持っていた文庫本を読むことにした。
トンネルを抜けてもそこは雪国になっているようなことは当然なかった。
しかしながら、建物の雰囲気は本州のそれとは異なっていることが分かった。
基本的にそれぞれの家には煙突があった。
そうすると、洋風でどこでも見かけるような建物とは違った印象を受けるのだった。
函館駅につくと、荷物をコインロッカーに入れ、
駅に付随した案内所で路面電車の一日パスを買った。
まず向かったのは『あじさい』というラーメン屋で、HANAが下調べをしていた店だ。
店に着くと、かなりの行列ができていた。
雨も強く降っていたし、ほかに行くあてもないので素直に待っていた。
壁にかけられた大きなテレビモニターにはニュースが映し出されていて、
京都の桂川が氾濫しているといるとニュースキャスターは伝えていた。
また関東にも台風の猛威はのびており、
床下浸水、川の氾濫など、悲惨な状況のようだった。
しばらく待っていると、席に案内されて、
HANAは塩ラーメン、僕は味噌ラーメンとチャーハンと餃子を注文した。
それほど時間がかかることもなく注文された品は届いた。
僕たちは台風のニュースを見ながらそれを平らげた。
店を出ると、五稜郭タワーに上った。
悪天候だったので、たいした景色も望めないんだろうと思っていたのだけど
意外にも見下ろした五稜郭には感動し、360度の景色も堪能することができた。
雨が強く降っていたけれど、五稜郭を見ていたら実際にそこを歩いてみたくなった。
実際歩いてみたら、天候のせいもあって観光客は少なかった。
しかしながら中国人観光団は多く見受けられた。
五稜郭を一通り回ると、路面電車に乗って駅まで戻った。
すると、駅は人で溢れていた。
電光掲示板には運行停止の文字。
台風の影響で全ての電車が不通になってしまっていたのだった。
窓口に並んでいる人たちは、並んだ結果どういう解決策を期待しているのかは不明だった。
コインロッカーに入れていた荷物をピックアップすると、
予約していたホテルへと向かった。
チェックインを済ませてしばらくベッドで休むことにした。
ぼーっと窓の外の荒れ狂う様を見ていると、次第に風の流れが変わり、
厚い雲で覆われていた空に隙間ができ始めていた。
予定では、ロープウェーに乗って、箱館山に上って夜景を見ることになっていたのだけど
ネットの情報では運転を見合わせていて、行くことを諦めていた。
そんな状況の中で「これはもしかしたら晴れるのではないか」
そう期待して運営会社に電話をし、運行状況を聞くとまだ再会する予定はないとの返事だった。
しかしながら、そんな電話をしている合間にも、
雲の厚みは取れ、西日が差し始めていた。
「HANAちゃん、外に出よう!」この日一番の大きな声でそのように言うと、
カメラを持ってホテルを出て行った。
早足で外に出ると、そこには大きな虹が空一面にかかっていたのだった。
その時の感動を形容できる言葉を僕は残念ながら持ち合わせてはいないけれど
光景は目に焼き付いている。
近くにいた人たちも、足を止め空にかかる虹を眺めているようだった。
雨はすっかりやんでおり、雨で濡らした道路に夕日が光っている。
鏡で反射させたようなその美しい街並に僕たちは言葉を失った。
赤く染まる夕日、ひっそりと周囲を照らす外灯。
まるでパリの町にでも迷い込んでしまったような、
美しい映画の舞台にいるような錯覚に陥る。
美しい映画の舞台にいるような錯覚に陥る。
この場所にHANAと来られてよかった。
僕はそう思った。
僕たちは時間の経つのも忘れ、日が暮れて外灯の明かりだけになっても
その場から動くことはなかった。
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