2022年5月9日月曜日

あぁ スムーズな人生

自分という人間は、スムーズに生きられるように、花さんに道を作ってもらっているようである。

つい先日のGW。子供を連れて一足先に旅先へと向かった花さんたち。僕はその翌日に一人で飛行機に乗るという段取りである。

今日び、飛行機への搭乗というのは全てスマホで完結する。クレジットカードと紐づいており全て花さんが手配している。

「あなたはこれ、この時間に空港にいくよろし」と花さんが言う。

iPhone機能のウォレットにチケットが表示され、前日から必死にリマインドしてくれる。

「出発の何時間前だ、忘れることなかれ」と。これがあれば空港での発券なども不要で、ささっと保安検査所も通れてスムーズである。

そして当日。私はきちんと早朝に起きた。掃除をし数日の留守に部屋が耐えうるようにチェックする。洗濯機の水道の元栓も締める。私は気になる部分においては徹底してしまうB型である。

肝心のセキュリティも作動させて家を出た。玄関の鍵を閉めたかの確認も2度行った。


外はまだうっすらと寒かった。

渋谷、品川を経由し羽田空港へ。第3ターミナルは外国へ行くところだから第1.2ターミナル駅で降りる。ちょっと前に行った沖縄の時と同様に問題ない、滞りない。

エスカレーターを登りロビーに入ると思ったよりは人が少なかった。

人々はなにやらカウンターだったり発券機で作業をしている。なぜいちいち時間のかかることをしているのだろう?と謎な上から目線をまき散らしながら、僕はiPhoneのウォレットからQRコードを表示させる。実にスムーズだ。

ところがである。僕がゲートに入りQRコードをかざすと不穏なブザー音である。おや?


すぐさま有能そうな女性職員が僕のところにやってきてどうされました?と聞く。

僕は携帯のモニターを見せると気の毒そうな声で言った。「ここはJALですので、こちらではございません」と。

おや。何事だろうか。前と同じように通っているはずなのだけれど。

ちょうど花さんと連絡をとっていて、どういうわけか通れなかったのだがというと、

もしかして第1ターミナルにいるのでは?と。

おや。おや。このシンプルな字面からとてもやばい状態が伝わってくる。

果たして、僕がいかなくてはならないのは第2ターミナルであった。

しかしウォレットではターミナルの表示はなかったのだ。普通の人はANAの場合は、JALの場合はとターミナルを認識しているのであるが、僕の場合はいつも普通の顔して花さんの後ろに付いていっているだけだったからそういった頭の回路が皆無だった。

心臓の鼓動が早まる。すぐさま外に出てみるも、そこには巡回しているバスの姿も、係の人の姿も見られなかった。出発時間まで40分しかない

タクシーしかない、と思って探すも車内で休憩して寝ていたりそもそも人影が少ない。

無駄にロビーに戻り誰かを探してみるも、こういう時に限って助けてくれそうな人はいなかった。また外に出てみると、まさに客をおろそうとしているタクシーがいた。降りるや否や話をしてみると、僕の切迫具合が伝わったのか、乗せてくれた。そしてお金もいらないという。私は御幸が差したその運転手に何度もお礼を言う。そして私は人に助けられて生きているのだなと思った。

羽田空港はとても広い、車で移動しているのになかなか第二ターミナルには着かない。出発の1時間前には空港にいる状態を作っておいたはずなのに、私は空港内でタクシーに乗って焦っていた。

ドライバーは横山さんと言った。お代はいらぬと言われてもタダでのせてもらうわけにはいかない。しかし悲しいかな財布には諭吉しかいなかった。


無賃乗車の私を丁寧に運んでくれた横山ドライバーには何度もお礼を言い、これがジャパニーズおもてなしかと思う。本当はお金を払いたいのだけどすみませんと思いながらロビーに入った。

果たしてそこはANA一色であった。

もう本当に時間がなくてサササっと保安検査のゲートを目指し、チケットを表示させる。よしよしこれで安心だと思いながらゲートをくぐると、またしてもあの音である。

ブー

なんや、何がいけないんやと思いながら、有能そうな方が私に近寄ってきた。そして私に告げる。「座席指定がまだのようです」と。

そういえば花さんに言われていたわ、座席指定してね、と。

私は誰も並んでいない発券機で、QRコードをかざした。

そこには名前と38歳という年齢が表示されていた。

僕は38歳にして、一人でスムーズに飛行機に乗ることさえできないのだ。僕はなんとなくスムーズに生きていると思いきや、花さんに整地してもらった道を歩いているに過ぎなかった。

この時点で出発まで20分を切っていて、当然座席は全て埋まっており、私には非常口のある場所しか空いてなかった。甘んじてそれを受け入れて、ようやく私は保安検査を通り抜け遠い遠い搭乗ゲートを走って目指すのであった。

スムーズな人生には程遠いようだ。

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