2019年9月28日土曜日
ペトロサインス
知らない土地での生活に、そろそろ疲れが出始めていたのか、朝食後にもなかなか出かけようとしない理子。「楽しいところに行くよ」という言葉だけでの誘いにはもうなかなか乗ってこなくなっている。もう11時近くになっていた。
仕方がないので花さんは理子を抱っこして出かけた。僕は相変わらず玲さんを抱っこしている。
この日はスリアにあるペトロサインスというところへ行った。ざっくりと言えば石油会社が作った科学館のようなところで、その施設の間口からは想像できないくらい中は広かった。エントランスには自社の説明のような区画があって、料金を支払ったあと、中に入るのには丸いトロッコのようなものに乗っていく。
レールに沿って進んでいくと、暗いトンネルの中にジャングルのように草木が茂り、壁のモニターでいろいろなことを説明している。ナレーションが流れているのだけど、言語が理解できないので、勝手な解釈ではあるけれど、マレーシアの自然とペトロナスという石油会社の共存や、マレーシアの発展には我々が必要なんだ、という映像だろう。お金を払ったのにこういう啓蒙のための施設なのか?といぶかってしまうのだけど、そのトロッコを降りてから広がる世界はなかなかのものだった。
電気や宇宙、映像、恐竜、石油の採掘場を再現したような巨大施設。とにかく館内は広い。フロアが変わると全く違う施設に来たような気になる。展示物の説明パネルには現地語と英語と併記されているのだけど、理解はできない。だけど、直感的にどうやって楽しむのかが分かるようなものが多かった。体験型のものが多かったので、施設に入るまではずっと抱っこされていた理子だったけれど、お気に入りのサンダルのヒールをカンカンと響かせながら、あれはなに?これは?と興味深そうに遊んでいた。
僕のお気に入りは宇宙のフロアで、宇宙飛行士が訓練にでも使うような機械を試すことができた。座って手足を固定すると、とにかく360度ぐるぐると勢いよく回り出す。年甲斐もなく「ウワー!!!!」と叫んでしまう。しかし、途中からはこの状況が面白くなってきて笑い出してしまった。とても面白いものだった。
この装置の脇にはもちろん係りの人がいたのだけど、もうそういったリアクションを毎日見ているのであろう、僕のリアクションに対してはまったくの無表情であった。
その他にも、宙吊りになった宇宙服があり、顔のマスクのガラス部分がモニターになっていて、自分の顔写真をそこに移す仕掛けがあったりして。大人も子供も楽しめた。もしかしたら僕の方が楽しんでいたかもしれない。
だんだんと人の数が増えていって、それぞれの遊ぶものに対して群がる人数が当然増えていく。特に採掘場を再現しているエリアは、子供心をくすぐる巨大装置があって、そこにとにかくわんぱくな子供たちが集まっていた。
採掘を模したものなので、カゴのようなものに砂の粒を詰め込む。それを滑車の仕組みでロープで引っ張り、荷を上に運び、中身をあけて、また砂を入れて、というのを延々と繰り返す。
みんなが我も我もとやりたがる。もはや順番や代わり番こという概念が存在していない。言葉がお互いに通じないというのもあるのだろうけれど、これは子供たちに限ったことではなかった。
例えばエレベーターを待つとき、日本だと並ぶという行為が自然発生すると思うのだけど、それがない。思い返してみれば空港で電車に乗ったときもそうだった。
そういったわけで、親たちも子供のことを注意しないし、ただ遠くで見ているだけだった。
世界で負けてしまう日本人の絵を感じざるをえない構造が見えてしまったので、理子には負けるなとハッパをかける。それが良いことなのかは分からないけれど、せっかく自分の番が回ってきたのに易々と譲るなということを言ったわけである。
それぞれのフロアの濃度が濃いため、時間があっという間に過ぎていく。気がつけば2時だった。途中、軽食を食べれるところがあったので、そこでお弁当やドーナツを買って食べた。理子はチョコのかかったドーナツだったのだけど、どういうわけか温めてから渡された。当然チョコレートは溶けていて、口の周りはチョコだらけになってしまった。
施設はまだまだ続く。その後はレーシングカーの原寸大のものや、ゲームセンターにありそうなレーシングゲーム。とにかくありとあらゆるものが揃っていた。個室でのワークショップもある。
しかしその施設の多さに比例して、僕の疲弊度も増していった。10キロ近い玲さんをずっと抱っこして、かがんだり、なんやらしていたことに加えて、冷房の強さがこたえた。そういえばホテルの部屋もクリーニングされた後は空調設定が15度になっていた。なんなんだろう、この国は。
施設の最後の方で、ゲームのシムシティのように、街をつくるシミュレーションゲームがあった。海の近くに原子力発電所を作る、山の方に火力発電所などなんとなくやってみる。最後の最後で石油会社感を出してくるのは流石である。するとモニター内で上司のような女性がプレイヤーである僕に対して罵る。「YOU`RE SUCKED!!」
どうやら僕は街づくりを失敗したようだ。
その後ホテルに戻って休憩する。理子も疲れているはずなのに、こういうときにしか自由に見れないYouTubeを視聴し始める。僕の嫌いなプリンセスのユーチューバーの声をマレーシアで聞くことの悲しみを覚えながら体を休めた。
その後は、やっぱりプールである。もはや疲れることを知らない底なしの理子。僕もそこで飲むビールを励みに奮闘する。プールに併設されたバーカウンターでは、モアビア?と勧められる。サテは?とも。どうやらすっかり飲む人と認定されてしまったようだった。
その後、夕飯はホテルのラウンジで済ませ、またスリアに行き、伊勢丹で買い物をした。お土産らしいものをちゃんと買っていなかったのでそこで探すことにしたのだ。伊勢丹だから、ということもあるのだろうけれど、日本人がいっぱいいて、僕らと同じようにお土産を買い込んでいるようだ。いかにもお土産然としたものよりも、地元民が食べているようなもののほうが面白い。有名だというオールドタウンホワイトコーヒーも買う。
スリアを出て少し街を歩いてみると、CHANELや PRADAの店など、どこか東京の日常で見かける延長線のような街の景色に、自分がどこにいるのか一瞬見失いそうになる。明日で旅も終わって日常へ戻っていくのが不思議な気分である。
旅先での毎日が色濃く終わっていく。
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