朝起きて、窓から景色を眺めると、向かいのホテルのロータリーに黄色いスポーツカーが止まっていた。ボンネットには花束があり、それはちょっと置いておいた、というよりも、飾ってあるように見えた。
ホテルで結婚式でもあるのかもしれない。そんな風に思った。
この日もホテルのラウンジで朝食を食べた。続けて利用しているので、ホテルの人も親しみを込めた挨拶をしてくれた。少し離れた席では関西弁を話す中年のグループがいて、ここは一体どこなんだろうかと思う。
この日はまず洗濯をすることから始まった。4人分もあるので、すぐに洗濯物がたまってしまう。ホテルにも洗濯をしてもらうシステムはあったのだけど、キロ換算ではなく、アイテム数で料金が計算されてしまうので、どうしても値段が高くついてしまう。そういったわけで、イケアの青いバッグに洗濯物を詰め込んで、ホテル近辺にあるコインランドリーに行くことにした。
ホテルを出て、ファッションビル群を通り過ぎる。途中、セブンイレブンに立ち寄り、お茶を買う。シンガポールでお茶を買った時は、甘い紅茶のような味がして、全く求めていた味と違って閉口した、ということがあったのだけど、ここでは「おーいお茶」を買った。味はまぎれもなく「おーいお茶」だった。
歩みを進めていくと、だんだんと景色は雑多になり、華やかさがなくなり、生活臭がするようになっていく。建物は薄汚れていて、道端にはゴミが散らばっている。軒先ではなにやら原色のテントが張られて食べ物を売っている。なんだか異様に強い生命力を感じる。そんな『そちら側』からは、遠くに華やかな高層ビル群が見えるのだけど、今日もヘイズで曇っていた。
調べてあったコインランドリーに着くと、数台の洗濯機が元気よく回っていて、備え付けられていたベンチに座って待っている人の姿が見えた。
店の奥にはカウンターがあって、僕らが中に入って看板を見ていると、係りの人が話しかけてくれた。
話を聞くに、椅子に座って待っている人たちのように、自分でマシンを動かすか、係りの人に全部渡してやってもらうか選ぶことができるらしい。
僕らは係りの人にお願いすることにした。その場で重さが計られて値段を確認。終了時間を教えられるのかと思ったら、ホテルまで配送するサービスもあるという。「なんて素晴らしいシステムなんだ!」と僕らは当然のことのようにそれを利用させてもらった。「畳むか畳まないか」を何ども確認され、「畳まない」と突っぱねる我々だった。
一気に身軽になって、気分がよくなった。
仕事をひとつ終えると、セントラルマーケットに行くことにした。花さんが「 GRAB」というアプリでタクシーを呼ぶ。海外出張時にこれを使い、とても便利だったという。なぜなら、運転手と会話をしなくても確実に目的地に行けるし、直接のお金のやりとりも発生しないからだった。
そんなわけで、ここマレーシアでもそれを使った。設定が済むと、いまどのあたりまで来ているか、地図でわかるのも良い。
車は早々に到着し、乗り込むとそれは新車で、新しい匂いがする。最初の「ハロー」くらいの会話が終わると、すぐに目的地に向かった。無駄はなにもない。
セントラルマーケットは、バザールのようなもので、区分けされた場所に店が並んでいる。ざっくりと言えばお土産屋の集合体であった。
水色で可愛らしい建物の中には入ると、当たり前のように日本語がいろんな方向から聞こえてくる。中にはドクターフィッシュの水槽に足を突っ込むという店があり、そこでは日本人のユーチューバーらしき集団がいて、騒いでいた。トルコでドクターフィッシュをやったことがあったけど、その時見たものよりも3倍くらい体が大きい。
マレーシアのお土産はここで揃うといわれるだけあって、いろんなものが置いてある。バティックやなまこ石鹸、アクセサリー、お菓子。とりわけ花さんや理子が長居していたのは、お土産的ものではなく、地元民が食べていそうな、どちらかといえばスナック菓子の問屋のような店だった。ここでは店員のおじさんがすぐに袋を開けて、試食させてくれていたようだった。サービス精神が旺盛であるがゆえに、財布の紐も緩んでいく、といった感じだ。僕はアクセサリー屋で、祖父母にブレスレットを買った。ずっと前から欲しいと言われていたのだ。
また、別の店では、子供服専門店があり、花さんが値段交渉をして買い物をしていた。言われたままの金額では高いのである。店員も日本人とわかるとふっかけてくるようだ。なぜなら服には値札がついていない。勧めた挙句、買う直前になってもなかなか値段を言わないという徹底ぶりだった。結局いくらかまけることに成功したようで、理子と玲さんの分の2着を買っていた。
しかし全体をざっと見て回って思うのは、なんとなく同じような店が並んでいるように見えてしまうということ。同じようなものを同じように売っているので、なんとなく手に取っても買うまでには至らなかった。
マーケットを出てみると、道に沿って屋台が連なっていた。デザイナーのジミーチュウは
マレーシア出身ということもあって、安い、などという字面を見かけたのだけど、どう考えても偽物だろうという店構えのなかで様々なブランドの革製品が売られていた。そして日本語で「マスター!マスター!」と声をかけられる。
ここにはブランド品以外にもおもちゃなどもあり、アナ雪が目にはいった。似ても似つかない顔のエルサがくるくると踊っている。理子は食いついて見ている。カオスである。
陶器を扱った店があり、ただプリントされた柄の皿といったものたちだったのだけど、その柄や色味が可愛くて買おうかな、とも思ったけど、持ち帰るのが怖いと思って買わなかった。
屋台をぶらぶらと冷やかした後、昼食を食べに行った。マレーシアでチキンライスといえば南香飯店である。いわゆるチャイナタウンの中にあって、実に雑多な街のなかだった。地元民であろう人たちから観光客までもわんさかと人がいたけれど、運良くすんなりと入ることができた。
チキンライスの味を2種類と青菜炒めを頼む。玲さんにはお弁当パックを与えていたのだけど、我々が注文したものが届くや否や、それを食べさせろと「うー!んー!!」と主張した。実際与えてみるとパクパクとよく食べる。マレーシアでの食事にうまがあう玲さん。理子も負けじと食べるので、大人が食べる分がなくなってしまった。それでもその食欲を見ていたら、それでお腹いっぱいになってしまった。
食事を終えると、またGRABでタクシーを手配した。しかしなかなか来なかったので、流しのタクシーを使った。メーターには厳密に何セントという単位で表示されていたけど、値段を払うときになると、セントは端数と見なされたのか、お釣りはくれなかった。そういうものなんだろうか。
大人の買い物で体力を使うことなく過ごした理子は体力が有り余っているために、またホテル内のプールに行く。先日もみた親子がやっぱりいる。このホテルに滞在している以上、そういうものである。
理子と同じくらいの年齢の子が、お父さんと入っていて、我々が近づくとハローと挨拶をしてくれる。子供はどちらも恥ずかしがって隠れてしまうので、「ソーリー。シャイガール」と笑って話した。そんなことが数回繰り返された。
相変わらずのビールを飲み、プールを出る間際、先ほど話しかけられたお父さんに、訛りの強い発音で「どこから来たの?」と聞かれて僕は「ジャパン」と答えた。するとそのお父さんはブラジルから来たのだという。ちょっとした会話だったのだけど、よい国際交流の時間だった。
プールを終えて一休みすると、ホテルに近くにあるハッカレストランへと行った。花さん曰く「高城剛がリコメンドしていた店」とのこと。その店は外観は半屋外で、アジアの雰囲気があり、外国人受けしそうなところだった。僕らが店に入った時は7時を過ぎで、まだポツポツと席が埋まってるくらいのものだった。
注文はマレーシアだけど「鍋」とチャーハン、ビール。屋内ではエアコンが全開で付けられていることが多いので、こういった温かいものに飢えていたのだ。
この店にはどういうわけか、カールスバーグのボディコンシャスな服を着たセクシーなおネエさんがたくさんいて、ビールを飲み干すや否や、即コップに注いでくれた。飲みきってなくても注ぐのでなかなか休まらない。結局のところ瓶をお代わりしてしまったのは彼女たちの働きっぷりによるところなのかもしれない。
鍋は、調理されたものが運ばれてくるのではなく、店員さんが全てをセッティングしてくれた。それぞれの野菜を入れるタイミング、火加減調整など、僕らはすることはなかった。
玲さんはやっぱりチャーハンをいっぱい食べた。ポロポロ落としてはいるものの、食欲は衰えることをしらないようだった。僕らは鍋の温かく優しい味を堪能した。
そんなころ、突如屋根が自動で動き出し、頭上には空が広がった。理子が「ばあばにも見せてあげたいな」などと可愛らしいこと言う。
ほろ酔いで気持ち良く、さらにはこんなサプライズ的な仕掛けがあって、とても気持ちが良い。もしかしたら水にあたってお腹が痛くなるなんて心配もしていたけれど、1歳の玲さんも5歳の理子も我々も健康で過ごせている。とても良い。
すっかり2本目のビールも空いて、カールスバーグお姉さんが次のオーダーを促したけど、
しっかりと断って、会計し店を出た。すっかりもう9時を過ぎている。この日もやっぱり長い1日だ。
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