2019年9月21日土曜日

長い1日



朝、7時過ぎに目を覚ます。カーテンの隙間からうっすら光が漏れているけれど、7時にしては外はまだ暗そうだ。そっとカーテンの向こうへ潜り込み外を見ると、まだまだ夜だった。日本の冬だって7時半ともなればもう明るいと言っていいと思うのだけど、完全にまだ夜の暗さだ。
旅先で早く起きた時は散歩をするのが常であるのだけど、それをするには暗すぎて怖い。仕方がないのでベッドにまた戻った。

8時を過ぎると、家族が起き出した。その頃にはいくらか外も明るくなり始めていた。
10時に運転手付きのガイドを頼んでいたので、さっさと朝食を摂ることにした。ラウンジに行って昨日と同じテーブルに座ると、ウェイターはどこからともなくベビーチェアを運んできてくれる。
玲さんに、クロワッサンやフライドポテト、オムレツなどを与えてみると、面白いくらいにパクパク食べる。もちろん椅子の下にはポロポロ落としているのだけど、それにしても良い食欲だ。
体調を崩しがちな玲さんなので、旅先での体調不良をもっとも懸念していたのだけど、杞憂だった。安心できるむしゃぶりつきである。
並べられた料理で、チキンスープにビーフンか、ちぢれ麺を入れる料理があった。近くにいるコックに注文してちぢれ麺で食べてみることにした。これが朝食べるには良い味だった。

食後のコーヒーまで堪能して部屋に戻ると出かける準備をした。

マレーシアのことを調べた上で、トイレは結構重要なポイントだった。それは便座の周りが水浸しになっていることが多いということだ。要は、日本のように排泄後のおしりの処理をティッシュでするのではなく、備え付けられているシャワーや置かれているバケツの水を使って洗うので、水浸しになってしまうという。そのためにうすっぺらいサンダルではないほうが賢明であるとのこと。そんなわけで僕は今回サンダルではなく、ナイキのソックダートを履いてきたのだった。
ホテルのトイレにももちろん脇にシャワーが付いていた。僕は郷に入っては剛に従え、というかそうせざるを得ないので、用後、シャワーを使って洗ってみた。ウォシュレットみたいなものである。しかし自分でシャワーヘッドを持って洗うのはなかなか難しかった。ピンポイントで洗うことができず、確かに便座を含めて水浸しになってしまった。
そんな悪戦苦闘ぶりを、なぜかガラス張りになっているバスルームの向こう側で、僕以外の3人が隙間見ており、笑っている。ロールカーテンを閉め切っていなかった。


10時になって、ロビーに降りると、ガイドが待っていた。日本語が話せるということだったのだけど、ちょっとかじってる、くらいで達者ではなかった。
ワンボックスカーに案内されると、別にドライバーがいた。こちらは日本語を理解していない様子。
前もって行先は伝えてあって、早速連れて行ってもらうことにした。
自己紹介的な会話がひと段落すると、僕は気になっていたことを質問した。
「街中にいっぱい国旗があるけど、どうしてですか?」
するとマレーシアの建国記念日に備えて、掲揚しているのだという。それにしても結構な量だった。大小さまざまで、中にはビル全体を覆うほどの大きさのものもあった。
日本で同じように国旗を掲げまくっていたら、ちょっと異様な景色に感じるだろうなとぼんやり思う。
花さんとそんな話をしていると、イギリスに占領されていて独立した過去があるから、国旗を誇示しているのかもねと彼女は言った。
こういう時、学校で習うもので無駄な知識などないのだな、と思う。

そしてまた別の質問をする。
「いつもこういった天気なんですか?」つまりもやもやしているものなのか?という質問だったのだけど、「ヘイズだ」と言った。インドネシアで大規模な森林火災があって、それの影響でもやもやとした天気なのだという。ゆえに街も臭いわけである。学校もクローズしてしまうらしい。そのため、人工的な雨を降らせて対策をしているらしいのだけど、それは天気予報ではわからないことらしかった。
国が陸地で繋がっていると、紛争以外にもいろんなことがあるのね、と改めて思った。


ドライバーは猛スピードで走っていく。そしてシートベルトを二人ともしていなかったのが怖い。
そしてバトゥ洞窟に到着する。山、というか崖のようなところに階段をくりぬいた、といった雰囲気だ。その階段は虹色で色付けられていた。その脇には巨大な立像があり、遠くからでも目に入ってくる。そして観光バスがたくさん並んでいる。道の脇では店が並んでいて、花飾りが目についた。「これは菊で、お供えするためのもの」とガイドさんは教えてくれた。確かに店先で菊の花をむしって作っている姿が見られた。黄色や赤の鮮やかな色が目に入ってくる。

車から降りるとガイドさんがあれこれ説明する。階段は何段あり、それを登ると何があってあれがあって云々カンヌン。この人まさか、ついてきてくれないの?と思った時「私はコノアタリデまってます。往復で40分くらいカカル。子供いるだから」
「おい!ガイドだろお前」とこそ言わなかったけれど、内心毒づいた。

この日、僕が玲さんを抱っこしていたのだけど、階段を上るその一段一段が重い。それに結構な急勾配である。階段を見上げるとその彩色の面白さと、まわりにいる野猿に興味を覚えるけれど、なかなかたどり着かないという事実にげんなりしてしまう。
理子もこんな階段で抱っこをしろと花さんにのたまう。無理無理無理!頑張れ!と鼓舞する私たちだった。

階段を登り終えると鍾乳洞の広い空間があった。そこにも寺院のようなものが建てられ、極彩飾で彩られている。何かを売っているかのようなカウンターがあって、入るのにお金がかかるのかな、といぶかっていると、どうやらそれはお供えするものを売っているらしかった。半裸の僧侶たちがおり、祈祷している。しかし観光客がいっぱい溢れていて、その神聖さが少し薄らいでしまって見える。
洞窟内の高い位置に、スプレーでアルファベットがなにやら書かれているのが目についた。でも英語ではないものが多くて読み解けない。そんな中、一言「 REAL」 と書いてあり、なぜかしばらく見とれてしまった。
天井には部分的にぽっかりあいて、空が見えていた。

しばらくうろうろ見ていたけれど、来た道を戻ることにした。こういうとき下りのほうが
結構怖いものである。それに、猿があちらこちらにいて、それもちょっと怖い。ある女の人はどうやら土産物屋で買った小さな像を猿に取られてしまったらしく、号泣していた。それをあざ笑うかのように、猿は柱にそれをカンカンと打ち付けている。また泣く女性。無念である。

どうにかこうにか階段を下りきると、トイレに行く。このトイレは有料で50セント支払った。それからガイドさんのところへ戻る。彼はなにをするでもなく座ってぼーっとしていた。

次の目的地はピンクモスクだった。それがある地域は、今来たところとは逆方向にあるらしく、また車はスピードを出して飛ばしまくる。
だんだんと雲行きが怪しくなって、とうとう雨が窓に打ち付けるまでとなってしまった。
どうやらこれが人工的な雨によるものらしい。「天気予報ではワカラナイ」と彼は言う。

ピンクモスクは、官庁街にあるようだ。モスク以外の建物を見ると、日本では見られないような構造のものが多いように思う。高いし大きいし、複雑そうである。
車を降りると、傘を借りて中に入る。正門らしきところは人で溢れていたのだけど、ガイドは少し脇にある入り口から入ろうとする。さすがだなと思ったのもつかの間。警備員によって止められてしまった。雨で館内が濡れていて滑って危険だから入れないらしい。
目の前に鮮やかなピンクの建物があるのに、ただただ眺めるだけとなってしまった。しばらく雨が止むのを待っていたのだけど、ついに入ることはできなかった。午前の部が終了してしまったのだ。
そして今回のガイドによる案内はこの2箇所だったため、これにてホテルに戻ることになってしまった。「スミマセン、でも雨だから」と言う。あとで花さんに聞くとこのガイドのために支払ったのは実に2万円だった。ぼられたわけでもないし、落ち度があったわけではないけど、少し腑に落ちなかった。

ホテルに着くと、しっかりと高速代は別料金で取られた。この内容でこれは渋い。渋すぎる。


その後、昼食を食べにパビリオンというビルに行く。食事処を探したのだけど、結局昨日食べたディンタイホンのようなお店に入る。どういうタイミングなのかわからないのだけど、理子がぐずりだした。
食べたいと言ったものを食べないし、飲みたいと言ったメロンジュースも飲まない。さらに追い討ちをかけるように玲さんまでもぐずりだした。花さんは玲さんをなだめるために席を立ち、それによって理子はよりぐずった。少し疲れが出てきたのかもしれない。まだ5歳なのだ。


食事を終えると、ホテルに戻って休憩し、ホテル内にあるプールに行くことにした。思ってたよりも暑くないマレーシアだったので、僕はプールに入るのを若干渋っていたのだけど、理子のもやもやを発散させるためにも必要なことだった。
プールに行くと数人が泳いでいた。水着を服の下に着込んでいたので、早々にインした。
屋外にあるので、プールの水は冷たいのだけど、子供はそんなことは関係なかった。インフィニティプールという、要は建物のきわの部分まで行けるような大人向けのように見えるのだけど、ずいぶんと子供達が楽しんでいる。理子も同様である。
最初は花さんが一緒に入っていて、その後僕も入った。水は冷たい。

浮き輪を使ってゆらゆらしている理子はとても楽しそうだ。そういう姿を見ると嬉しくなる。その後、プールに併設されている簡易的なバーカウンターのようなところで、ビールを飲んだ。近くにいた地元民のような少年たちがサテを食べているのを見て、思わず僕も注文した。バリで食べてとてもはまった料理だ。それを食べながらビールを飲む。なんだかとっても夏休みである。
結局7時近くまでプールに入って遊び倒した。長い1日だった。


0 件のコメント: