我が家の本棚の一区画には、旅本コーナーがある。いつ頃だったか今まで本棚になかった、新しい国名が書かれたガイドブックの背表紙を発見する。次に旅する国である。
それはマレーシア。貯まったマイルで行けるところ。アジア圏で、行ったことがなくて、幼い子供が行っても大丈夫そうなところ。他にも該当する国はもちろんあるのだけど、マレーシアに落ち着いた。
9月の3連休に合わせて、夏休みを3日くっつけた。そうして花さんは、旅ブログやガイドブックを駆使して、興味深いところや子供対応しているところをピックアップした。そうやって段取りを組んだ。時折、「ここら辺はどう思う?」などとラインが飛んでくる。長橋家の専属ツアーコンダクターである。
そして、「しおり」が今回も作られ、修正を経た改訂版が出発の数日前に送られてきた。今回はクアラルンプールに絞っての旅である。
満を持して旅への出発だ。
それは平日木曜からスタートした。7時間近くの移動を、睡眠時間に充てるために深夜便という選択である。子供たちにとってはそれが負担が少ないと思われる。当然僕は仕事があるので、花さんたちとは空港で待ち合わせることにした。
花さんは、玲さんを抱っこし、理子を連れて空港まで移動するために、あらかじめスーツケースは配送済みである。今回も抜かりなしだ。
空港へは僕の方が先に着いた。送り預けてあったスーツケースをピックした後、シャワールームを予約した。これはウェブでは予約できないので、直接カウンターで申し込んだ。思えばここを使うのは2度目で、以前はバリへ行く時だった。あの時とは違って今では4人家族である。
しばらくすると、3人がやってきた。「パパー!」と元気よく理子が走り寄ってくる。待ち合わせ場所は到着ロビーだったので、その光景はさながら出張から帰ってきたパパ、それをお迎えする家族たちといったふうだ。
5歳の子供もしっかりと「1人」にカウントされ、シャワールームを使用する。一人当たり1000円くらいで30分。僕は理子を、花さんは玲さんをそれぞれ担当する。同室で2人使用は30分×2となって1時間使うことができたので、花さんに1時間使ってもらった。
シャワーから出ると、チェックインカウンターで荷物を預ける。だいたいいつもそうなのだけど、たっぷりあったはずの時間はいつの間にか枯渇している。ゆっくりと『つるとんたん』で日本での最後の食事を堪能することなど出来ず、モスバーガーで済ませた。
店の近くに設けられた休憩スペースには多くのグループがいて、これからどこかへ飛び立っていくようだ。そういう姿を見ると、こちらも旅に思いを馳せて少しドキドキしてくる。
ささっと食事を済ませると、出国手続きをする。理子のパスポートはまだ赤ん坊の頃に撮った写真が使われているので、係りの人にも少し笑顔が見られる。
搭乗口がだいぶ遠かったので足早に歩いていると、陽気な音楽ともに、カートが近寄ってきて、紳士なおじさまが「乗りませんか?」と声をかけてくれたので、喜んで乗せてもらうことにした。行き交う人を器用に、丁寧に避けておじさまは目的のゲートへと我らを運び届けてくれた。道中、周りの視線が注がれているのがわかる。あまり乗っている人を僕自身も見たことがないから、それもそうだよな、と思うが、人の親切は素直に受け取ったほうが良いようである。実に楽チンであった。
果たして、搭乗口に着くと少し遅れが生じていた。その間にトイレなどを済ませる。周りを見渡すと、僕たちと同じように幼い子供を連れている人たちがそれなりにいることがわかる。みんな考えることは一緒のようである。
子供連れは優先的に手続きをしてくれるので、搭乗時間がくると、すぐに機内に入ることができた。花さんが予約してくれた席は、前が壁になった先頭寄りのところだった。その壁にはベビーベッドをつけられる仕組みになっており、あとでCAさんがつけてくた。
グアムに持っていったジェットキッズはもう我々は手放していた。飛行機に乗っているときこそよかったものの、そのうち遊び始めてしまって荷物になってしまうだけだった。
今回はその代わりに、空気を入れて膨らませるオットマンのようなものを使った。もちろん用意したのは花さんである。
定刻通りに飛行機は発った。11時30分。7時間の旅
少しは想像していたことではあったのだけど、玲さんはベビーベッドでは寝ることはなかった。
クアラルンプール国際空港に到着し、無事に入国することができた。市内に向かうために電車に乗る。切符を発券するとQRコードがついていて、改札でそれを読み取る仕組だった。
車内の周りには日本人のおじさんグループがいた上に、窓からの眺めはどこか懐かしさを感じるような田舎風景で、日本にいるかのような気分だった。玲さんは車内でご飯を食べた。実にたくましく育っている。
市内に着くと、タクシーを拾ってインピアナホテルへと向かった。旅の第一印象はいつも、タクシーから見る風景によって決まると言っても過言ではない。窓の外に広がるクアラルンプールの街は、どこを見回しても高層ビルが建ち並び、なにかしらを建築途中で、大きなクレーン車がいくつもならんでいた。高層ビルの上階はもやっとしていてその輪郭がぼけていた。どことなく空気も臭いように感じる。
『深夜特急』ではマレーシアの街を高層ビルの街として描いていたような記憶があるのだけど、今現在においてもなお、高層ビルを造り続けているこの街は一体どうなってるんだろう?発展の天井がないのだろうか?
シャッターに描かれたグラフィティや行き交う人の姿を目で追いながら、ホテルに到着した。
「ようこそ、インピアナホテルへ」
体の大きなドアマンがホテルの中へ案内してくれる。僕たちの夏休みが始まったのである。
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