半袖で歩くには肌寒いから、玄関脇にある簡易クローゼットのところにあるジャケットを拝借して着ることにした。時刻は朝の7時前。だれもが寝静まっている時間である。ゴールデンウィーク中であるから当然のことと言える。でも日中あれだけうるさいのに、生活音がまるでしないから他人の家にでもいるかのようだ。
子供の寝かしつけに合わせて自分自身が寝てしまうため、(むしろ一番に寝てしまうので)起きるのも必然的に早い。10時半には寝てしまうから7時間寝たとしても、早朝に目が覚めてしまう。昔は何時間でも眠り続けることができたけれど、歳をとるというのはこういうことなのかもしれない。
この前もそうだったように、やはり海へと散歩に行くことにしたのだった。
自分が子供の頃は、魚屋の脇を通ってフェンスのない線路を渡って海へと行ったものだった。それがいい悪いというわけではないけれど、そういう時代だった。今では踏切を渡って以前よりは迂回することとなる。
国道はまるで車が走っていない。それでも押しボタン式の信号を使ってきちんと渡るのは理子が生まれてからの癖だ。
防風林である松林を抜ける。海岸線に沿って造られている防波堤を登ると、ランニングしている人やサイクリングしている人たちがいた。
波打ち際には釣りをしていると思しき人たちの姿が等間隔で続いていた。遊泳禁止のこの海岸線では遊んだ記憶はほとんどなく、初日の出を見る時くらいしか来たことがない。
だけど、一度だけこの場所にこようと思ってきたことがある。それは20代半ばの時に突発性難聴になったときだ。ちょうどこのくらいの時季のことで、耳が聞こえない恐怖心を消すために、海を見に来たのだった。
今回は、西の方角に歩いてみることにする。海を歩いていてもまるで景色など変わらないから、自分が満足したところでやめることになる。やめたところで引き返さなくてはならないからその辺のことも考える。
しばらく歩いていると、モーター音が聞こえ、数人が上を向きながらなにやら話をしていた。その視線の先にはドローンがあった。彼らはそれを沖の方に飛ばしていた。
さらに歩いて行くと、小さな看板が立てかけられていた。『ゲラティック号』というのが座礁した場所らしい。なんとなく話は聞いたことがあったけれど、実際にその場所に来たのは初めてのことだった。世の中知らないことばかりだ。これ以上進んでいくと深みにはまりそうだったので戻ることにした。
来た道をただ戻るのもつまらないので、防波堤を降りて、松林の中を歩いて帰った。しまいに行きどまりになったり墓があったり、家が唐突にあったりと、松林の中は不思議なところだった。当然初めて歩いた道だった。
そのうち県道にでて、行きにも通った踏切を渡り、家に帰った。だけど、起きている人は誰もいなかった。
家族が起きだして食事を済ませると、富士市のとあるお店に行った。そこは個人が経営している韓国製の子供服を売っている店だった。義姉がよくこの店で買い物をしているらしく、連れて行ってもらったのだった。
6畳くらいのスペースに所狭しと服が積まれている。デザイン性の高さの割に値段が比較的安い。トンデムンででも仕入れてきたのだろうか。
子供達にとって洋服屋ほどつまらないものはないわけで、彼女たちは敷地内にある遊びスペースで戯れていたのだけど、3分に一度は誰かが泣いていた。自分が使い終わって手を離したとして、誰かがそれを手にするのが嫌なのだ。店のお姉さんは、場数を踏んでいるようで、そういった子供の対処の仕方を熟知しており、いとも簡単にあしらっていた。そのおかげで親たちの手には服がいくつも収められていた。
花さんは数着購入していた。本当は韓国に行って買い物をしたいのだろうな、と思わざるをえない。
お昼時になったのだけど、そのまま祖母の家に行く。当然のことながらみんなは食事の最中だった。
仏壇におみやげを供え、線香をあげる。この家に来た時は手を洗うより先にそれをすることが身についている。祖父が亡くなってからは、祖父に向けて手をあわせるようになった。来るたびに話をすることがいくつもあるのだ。
一通り挨拶を終えると、子供達はお腹が減ったとわめき、大人も腹を鳴らしていた。
おばちゃんは、手際よく複数品作ってくれた。まず子供達が食べ、その後に親たちが続いた。まるでご飯を食べに来たかのようだった。
子供達はお腹を満たすと暴れだすので、おじちゃんと一緒に子供を連れて近所の公園へと行く。公園といっても神社の脇にいくつか遊具がある場所。自分が子供の頃から遊ぶ場所。どれもこれもあの頃と同じものがそこにある。今ではそれで自分の子供が遊んでいる。
滑り台を何往復もして、鉄棒でただぶら下がって、ブランコに乗りたがるのにいざ乗せると怖がって降りたがる。勝手気ままなキッズたち。
誰かが帰りたいと行って、みんなで仲良く手をつないで家に戻った。そして沼津に帰った。本当にご飯を食べに寄ったみたいだった。9人もの大人数で!祖母の前ではみんなが子供だったということだろうか。
帰り道、スーパーに寄って夕飯の食材を買った。夜は BBQだ。
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