車2台に乗り込み、家を出た。僕は父親が運転する車に乗った。二人きりだった。タクシードライバーの父は、至極丁寧に運転した。そして兄が運転するワゴン車の尻を丁寧に追いかける。
たわいもない話を目的地に着くまでしていたのだけど、父とそのような会話をすることはとても久しぶりのことだった。内容は大したことないけれど、穏やかな時間だ。
道路は思っていたほど混んでおらず、スムーズに進んでいく。
車のなかではラジオがかかっており、一昔前の、僕が生まれる前の邦楽を流す番組が選ばれていた。
聴くともなくきいていると、妙に耳に残る歌が流れてきた。
「くたばっちまえ」「アーメン」
女性ボーカルで、そのように歌っている。
きちんと聴いてみると、どうやら結婚を題材にした歌らしいが興味を持った途端に曲が終わってしまった。
すぐさまiPhoneでググる。
「くたばっちまえ」「アーメン」
すると便利なもので、きちんと曲名を教えてくれた。
sugarというグループの「ウエディングベル」という曲であることがわかった。
くたばっちまえ
途中コンビニで昼食の食料を調達し、トレイ休憩をした。子供達は皆オムツをしていないので、トイレ休憩は重要な項目である。
東静岡駅から、日本平動物園行きのシャトルバスが運行しているということを義姉が調べてくれていたのでそこに向かった。
駐車場から乗り場まで行くと、100人くらいの人の列ができていた。当然のことながらそれはシャトルバスを待つ人々だ。
GWを実感させる人の列の最後尾に並ぶ。しばらく待っていると、意外にもバスは何便も到着し、1時間もしないうちにバスに乗って動物園に行くことができた。中には待ちきれずタクシーに乗り込んでいく人たちもいたけれど、経済を活性化させてよろしいことだと思った。
チケットも割とすぐに購入できた。入場してすぐにしたことは、子供達の記念撮影だ。しかし上は6歳、下は3歳の子供たち4人は、立ち止まって写真を撮らせてくれなどしない。
誰かがポーズを決めると誰かはひっくり返っている。諦めることを覚えないと次に進むことはできない。
芝生でゆったりした場所があるらしく、ご飯を食べるためにそこに向かった。みんな腹を空かせているのである。風が少し吹いているけれど、穏やかな陽気だった。
ビニールシートを持ってこなかったが、芝生の上に直接座るのは気持ちがいい。
おにぎりやサンドイッチをあっという間に食べ終えた子供達は、あてもなく走り出して行った。僕もすぐに食べ終え、追いかけた。追いかけていたつもりが、いつの間にか追われていた。もう動物たちを見に行かなくてもここで十分楽しめるのではないかと思ってしまうほど、子供達はめいめい遊んでいる。走るだけでも楽しいのである。
親たちはそんな姿を見つめていた。
しばらくしてから重い腰を上げ、順路に沿って動物たちを眺めた。
理子は地図を見ながら歩いていた。大人のように振る舞いたいのである。
様々な種類の動物がいる中で、とても良いなと思ったのはキリンの見せ方だ。
通常のアングルもあるけれど、キリンの目線の位置にまで上がって見ることができて、
餌を食べに来る姿が目と鼻の先で、息遣いまで聴こえてきた。
広い園内で、くまなく見て回っても誰も寝る気配がない。抱っこして欲しいとせがまれることはあるけれど、子供達は全力で楽しんでいるようだった。
出口付近の休憩所でソフトクリームを買ってみんなで食べた。結局夕方までしっかりと動物園を堪能することとなった。
帰りの車には羽咲も同乗した。小学校一年生の、かなりおませな女の子だ。話をしていると、どこで覚えたのかと思わせる絶妙な言い回し。大人顔負けな彼女は車に乗ると「ゆずで知ってる曲ある?」と僕に聞いてきた。
どうやら羽咲が通っていた保育園の先生が、ゆずを好きだったらしく、園で歌う曲の中にゆずがあったようだ。
僕が知っているのは「ゆずえん」までだった。
「灰皿の上にためいきをふきかけて〜」と歌ってみても、羽咲は「なにそれしらない」とつれない返事だ。
「もう日は暮れたー薄暗い辺りをぼんやり 街灯が照らしたー」と歌ってみても、羽咲は「なにそれしらないつまらない」と冷たくあしらった。
仕方がないので駐車場の猫の歌を歌ったところ「この前長いくだり坂をたまたま車で走ってたらね、この曲が流れたんだよ!すごくない!?」と彼女は嬉しそうに言った。
世代を超えて歌われるゆずの凄さを知る。
「ブレーキいっぱいにぎりしめてーゆっくりーゆっくりーくだってくぅ」
帰り道は心なしか早く家に着いた気がした。
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