2019年3月30日土曜日

BEACH

朝5時に目を覚ました。ベランダに出ると、月が高いところで煌々と光っていて、海に道筋を作っていた。水面でそれがゆらゆらしている。
月は大きな雲に覆われて隠れたり、またひょっこりと顔を出している。
しばらくは上半身裸で外に出ていたけれど、薄ら寒くて服を着た。南国といえど、そういうものらしい。
ニワトリがコケコッコーと元気よく鳴いている。しかしまだ朝はなかなか始まろうとはしていないように思う。
そう思っていたら、空がだんだんもやもやしてきて、雨が降り、しばらくするとまた止んだ。
先ほどまでは空に溶けていた山の輪郭が、くっきりと浮かんできた。太陽はどこから登るのだろう。

6時を回ると、空全体が明るくなってきた。遠くの方に強い光が見えて、星が瞬いているのかと思ったら、ゆっくり移動していた。どうやら飛行機だった。観光地には早朝から飛行機がやってくるようだ。
ニワトリ以外にも鳥の鳴き声が増えてきて、グアムの朝がどうやら始まり出し、我々も活動を開始することにした。理子は去年も着ていたお気に入りのワンピース姿だった。

前日の反省を活かして、早めに朝食を食べにバイキングへと行く。種類は豊富だった。日系のホテルらしく納豆やごはんなどがあったので、理子にはそれを与えた。しかし、いわゆる納豆のタレがなく、醤油で味付けしたのが嫌だったらしく、あまり手をつけなかった。難しい年頃である。

花さんはグアムを周遊するバスのチケットをネットで予約していて、ホテル内にあるHISのブースでそれを受け取った。いたるところにバス停があり、3日間乗り放題だった。バスはホテルにももちろん停車するため、これが本当に便利だった。ぬかりない花さんの活躍によって、我々は目的地へと向かった。

グアムの道が悪いのか、バスの性能の問題なのか、乗っているとガタガタとかなり揺れた。それにどういうわけか、座席は日本の一般的なそれとは違って、窓際に一列に並んでいるため、停車するたびに進行方向に、つんのめってしまう。

朝方の雨が嘘のようにいい天気だった。バスの車窓から眺める景色はどれも新鮮だ。いわゆるアメリカンハウスはモダンに見えたし、木々の緑はとても強く、南国を感じるものだった。しかしながら至るところに日本語の看板があった。よほど日本人がたくさん来るようである。

イパオビーチ近くの停留所で下りて、海岸まで歩いた。基本的に日陰などなく、照りつける太陽が肌に痛い。
僕が玲さんを抱っこしていたのだけど、理子も歩くのを拒否し、結局花さんが抱っこしていた。

海岸に近いところにだだっ広い公園があり、滑り台などの遊具があったけど、日差しで座面が熱くて遊ぶことはできなかった。すると理子は「おしっこ」と言った。唐突にやってくる子供の尿意。
土地勘のないところでのその意思表示は大人を困惑させる。その広場において建物っぽいそれを探して歩く。近づいてみると、全く関係のない建物で、右往左往。すると、少し離れたところにいたおじさんが、身振りであっちに行けという。思いっきりカタカナで「トイレ?」と聞くと頷いていたので、そちらに行くと本当にあった。
助かった。

気を取り直して、海辺へと行くと、ホテル前の海岸とはまた質が違って、かなり綺麗だった。まばらに人がいる程度で、特に混雑しているわけでもない。気持ちのいい場所だった。
我々は11時に、そのビーチ近くのレストランを予約していたので、一旦そちらに向かった。
プロアという名前のその店に着くと、まだ開店していなかったけれど、続々と客が集まってきた。その人たちはみんな日本人だった。
店が開くと、我々は窓辺のいい席に案内された。照明や、壁面の色の趣味がとても良い。
一押しメニューのバーベキューとシーザーサラダ、それと理子用のキッズメニューを注文する。

これがこの旅で一番の美味であった。
スペアリブを口に頬張った瞬間に広がる旨味は飛び抜けていた。「うまい!」と何度も口ずさんだ。
シーザーサラダというと、全く想像と違った形状をしていた。いわゆるクルトンにあたるものが、一つの筒状のクッキーのようになっていて、その中にドレッシングで味付けされたレタスの房が入っている。
「なんじゃこりゃ」と食べ進んでいったのだけど、これは完食できないほどの量だった。

理子といえば、ミートボールが日本で食べるようなものではないと嘆き悲しみ、パスタもあまり食べずに終わってしまった。子供を楽しませるためのメニューを選ぶのはなかなか難しい。

我々が店を出る頃には全ての席が埋まっていた。超人気店だった。


お腹がいっぱいになったところで、海に行くことにする。木陰にレジャーシートを敷き、水着になる。
理子は待ってましたと言わんばかりにささっと支度をし、海に駆け寄る。ここも波は遠くにあるので安心して遊ばせることができた。
砂浜をよくよく見ると、貝殻やサンゴが細かくなったもので形成されているようだった。だから裸足で歩くと痛い。
この日のために、水中を見ることができる筒状のスコープを持参していたので、それで観察することにした。
理子は魚が見えたと言って喜んでいた。

ときおり花さんと交代した。僕はサンダルを脱いでシートにあがると、サンダルのストラップに沿って真っ赤に日焼けしていた。新婚旅行でトルコに行ったときと同じサンダルを履いていたのだけど、当時も同じように日焼けしていて、それがおかしかった。

玲さんをしばらく抱っこしていると眠りについた。実に穏やかで平和な時間だった。
ふと、遠くの方をみると、ウエディングドレスを着た人がいて、海をバックに写真撮影をしていた。ここに来るまでは、なんでわざわざ外国にきてそんなことするんだろう、と斜に構えた考えをしていたのだけど、実際にこういう場所であることを知ると、気持ちがわからないでもない。圧倒的な絶景だからである。
自分がリゾートの魅力を知らなかっただけだった。


理子がこちらには目もくれず、海辺ではしゃいでいる。何をするわけでもなく楽しい、という最高の時間を過ごしているようだ。
僕もそんな姿を遠くから見ているだけで、気持ち良く時間を過ごせた。


まだまだ遊び足りない、と言った理子をなだめ、ホテルに帰ることにする。
理子はだんだんと不機嫌になってくる。それは単純にまだ遊びたいからというわけではなく、睡魔が襲ってきたからである。行きの反省を踏まえ、玲さんを花さんに抱っこしてもらう。電池が切れかかってる理子は僕が抱っこした。歩かなくてもいいと分かると、元気が出てくる理子。しばらくは僕の腕の中で暴れていたのだけど、しばらくするとすーっと電池が切れた。

「パチン スイッチオフ」

子供にも魅力的なグアムであった。








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