到着したグアム空港では、入国のための長蛇の列ができていた。ぱっと見では圧倒的に日本人が多かったが、もちろんそれ以外も多くいるようだった。テープで仕切られた通路に、くねくねと曲がりながらとにかくたくさんの人が並んでいる。飛行機の中同様に子供がわんさかいる。そして時刻は2時近く。当然眠い時間帯である。お父さんによって抱きかかえられている子供たちが多いなか、どういうわけか理子は元気であった。
兎にも角にもまったく進まない列。今までの海外渡航で(両手で数えられる程度だけど)記憶にないくらい並んでいる。これがアメリカに入国するってことか、などど思った。子供連れを優先してくれる国もあったけど、今の状況でいえば、そんな組ばかりなわけで、どちらにしても待つしかなかった。
ようやく入国審査をパスして荷物をピックすると外に出た。しっとりと暖かかった。タクシー乗り場にはボッタクリ防止のためなのか、どこそこまでは幾ら、といった看板がある。
『オンワードビーチリゾート』というホテルが我々が宿泊するところだった。それを告げると、日本よりも大きめな車が動きだす。
当然真っ暗なので景色など見れないけれど運転手は「ビューティフルアイランド」だと言った。
空港からホテルまではあっという間に着いた。ホテルにチェックインし、部屋に入るととても広かった。早速窓を開けてみると、目の前が漆黒の海だった。波の音は聞こえなかったけれど、月の光が海面をゆらゆらと照らし、白い道を作っていた。
これはもう綺麗に違いないと確信させるものだった。
時刻はもう3時近く。我々は広い2つのベッドで寝た。
9時近くに目を覚ました。分厚いカーテンは全てを遮光していて、部屋は真っ暗だったので外の様子は全くわからない。寝ぼけ眼でベランダに出てみると、今までに見たことのない綺麗な色の海が広がっている。エメラルドグリーンと深い青とが混じり合い、遠くのほうで白い波が立っている。遠浅のようだ。少し先には小さな島がある。泳ぎが得意な人はすぐに着いてしまいそうな距離だ。
まだまだ朝なのに、既に海ではモーターボートを楽しむ人がいて、ホテルのプールでは子供達の声が響いていた。
僕らはまずホテルで朝食を食べることにした。閉まってしまうまであと1時間を大きく切っていたのだった。
バイキングのホールに行くと、家族づれが多くいた。そして、とにかく日本人ばかりだった。ホテルが日系だから、ということももちろんけれど、欧米人の姿はほぼなかった。
ホールで働く人たちはおそらくチャモロ人で、どちらかといえば東南アジアよりのように見える彼らは人懐っこそうな顔立ちをしていた。
腕にびっしりと刺青が入っているお兄さんが、玲さんを見つけると優しく微笑み、声をかけてくれた。
ご飯を食べられる時間はあまりなかったので、さっさと見繕って食べることにした。特にすごく美味しいというわけでもなかったけど、素晴らしい景色を見ながら食べるので、十分であった。
玲さんのご飯をお湯で温めて食べさせていると、タイムアップ。閉店となった。
部屋に戻ると、早速着替えをし、しっかりと日焼け止めを塗った。理子は水着のまま駆け出しそうだったので、なだめてズボンを履かせた。ホテル内は当然水着で歩いてはならないのだ。
ウォーターパークという、アトラクション系のあるほうのプールに行くと、流れるプールや、ウォータースライダーがあった。
ビーチパラソルのあるロッキングチェアはもう既に使用されていた。大人気である。
屋根のある売店の、テーブルを確保して、陣取った。理子は早速シャワーの流れる浅瀬のプールで遊び、滑り台を何回も往復して楽しんでいた。そして流れるプールに、自前の浮き輪を持って、花さんと入っていった。僕は玲さんを抱っこして、このグアムの日差しや、僕の目の前を通り過ぎていく黒いニワトリなどの、目新しいものを見て楽しんでいた。
うっかりドルを丸ごと部屋に置いてきてしまったため、売店でビールやらなにやら買うことができなかった。
ひとしきり楽しんだ二人は、テーブルにやってきて少し休憩をして、また理子はプールに舞い戻っていく。今度は花さんと交代して僕も流れるプールに入る。どこからともなく流れてくる浮き輪の一つを浸かってゆらゆら流れる。こんな風にプールに入るのは何年ぶりのことだろうか。中学生以来といっても過言ではない。
お昼をだいぶまわった頃、花さんが売店でご飯を買ってきてくれた。本当はアウトレットに行ってそこでご飯を食べる予定だったのだけど、理子はここから離れることを断固拒否したのだ。
僕はご飯のついでにLITEと書かれたビールを飲んだ。この状況で飲むそれが美味しくないわけはなかった。
花さんと交代したりして、ひとしきりプールを楽しむと、いい加減出よう、ということになった。花さんは先に着替えに戻り、僕は玲さんを抱っこしてテーブルから理子を見ていた。すぐそこの浅瀬にある滑り台で遊んでいたかと思ったら、いきなり流れるプールの方へ行った。しばらくプールサイドから眺めていただけだったのに、浮き輪を持って着水した。僕は全身の血の気が引いてすぐに駆け寄った。僕が慌てふためく姿を、理子はにやにやして最初は楽しんでいた。浮き輪に入っているので、溺れたわけではないので、まだ余裕があったのだ。
しかし僕が階段を下りて理子を捕まえようとしても捕まえることができず、理子が流れていってしまったとき、その状況にびっくりしたのか泣き始めた。当然のことだ。僕の焦りも半端なかった。プールは意外と深く、抱っこ紐で玲さんを抱えたままだと玲さんも溺れてしまう。
運よく日本人の人がその状況を見て助けてくれた。本当に助かった。何度もその人にはお礼を言って、理子にはきつく怒ったし、自分自身も戒めた。
水辺においては絶対安心なんてことはなにもなかった。
花さんが戻ってきて、ことの顛末を話すと、理子はまた泣き出した。そうして部屋に戻って休むことにした。
部屋から眺める景色が綺麗だと、なにもしてなくても居心地の良い時間が過ぎていく。うつらうつらとベッドで横になっていると、いつの間にか寝てしまった。
夕方過ぎ、辺りがもう真っ暗になったころ、ホテル近くのダイナーでご飯を食べた。ザッツアメリカン。地元民もツーリストも集まるいい店だった。メニューにはガツンと肉、肉、肉が並ぶ。ステーキの塊と炒めた肉の2種、それにチキンライスがどっさりと盛られたプレートと、巨大なクラブサンドを注文した。ビールはどういうわけかアサヒだった。そういえばテーブルには「YAMASA」と書かれた醤油が置かれていた。
理子は昼間の出来事のせいか、あまり料理を口にしようとしなかった。無理もないと思いつつ、僕はがっつりとそれらを食べる。旅先でカロリーを気にしてどうするのだと言い聞かせてズボンのベルトをこっそりと緩めるのだった。
店員は気さくに話しかけてくれ、特に玲さんをあやしてくれた。どっさり盛られた料理を、最初は食べきれないかと思ったけど、結局は全部食べきれた。
店を出る頃には理子の機嫌も直っていた。そして「明日は海に行くよ」と花さんと楽しそうに話をしている。旅はまだまだ始まったばかりだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿