「あんなお酒の飲み方しちゃだめだよ」
「うん、水曜日からお酒飲んじゃだめだよね」
彼の胸に体を預けながら彼女は言った。
終電手前の地下鉄車内、ラッシュ程の混みようではないが、
仕事で疲れきった会社員たちで車内は溢れている。
「気持ち悪いの?」
彼が気遣うように言うと、彼女は少し顔を上げて彼に視線を投げ掛ける。
「大丈夫だよ、でも飲み過ぎたみたい」
顔を紅潮させて、少し鼻にかかったような声で彼女は答えた。
しかし、生まれたての子鹿のように膝が言う事を利かないようだ。
彼の支えがなくては彼女は立っていられない様子だ。
「どうやってお酒をたくさん飲めるようになったの?」
彼女が彼に問いかける。
「俺の親父がさ、酒飲みだったんだ。ごく控えめに言ってもすごい量を飲んでいた」
「そんな姿を間近で見ていたら、いつの間にか飲めるようになっていたんだ、親父のようにはなりたくないって思っていたのにね」
「私はまだ21歳だから、これからお酒の飲み方を覚えなきゃ」
「とりあえず、ずっとグラスを手に持っているような飲み方はやめたほうがいい。
もうしゃべらないでいいから楽にしていていいよ」
彼女は安心しきったように彼に体を預けた。
彼は窓に映る自分の顔を見て少し笑った。
時計は深夜12時を回っていた。
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