2018年12月2日日曜日

一家パンデミック

先週金曜日の夜、理子が唐突に嘔吐した。

彼女はむっくりと起きだし、そして吐いた。その一寸前、花さんは母の直感なのか、やりとりがあったのか分からないが、その自分の手を受け手として、理子の口元にさしだした。そして吐瀉物は布団への直撃を免れた。
しかしながら飛沫は当然布団のみならずこの部屋全体として行き渡っている。
どうやって感染源を絶ち、かつ被害を拡大させないかを寝起きの頭で必死に考えて夫婦は行動した。
洗濯すべきものを風呂においやり、シングルの布団セットを別部屋へ移動した。なにせ4ヶ月の娘がいるのである。そちらへ感染してしまってはもう悲劇以外のなにものでもない。

片付けをしながらも、なおも理子は吐いてしまう。胃の中が空になるまで、一番つらいパターン。防水シーツを敷いてももはや意味はなく、ゲロの飛沫は全くロマンティックなそれではなかった。

片付けをしているなか、頭の中では別のことを考えていた。昼間に行った人ごみに溢れた某感謝祭がいけなかったんだろうか。完全にもらってしまったにちがいない。
花さんには玲さんを別室で見てもらい、僕は理子と一緒に寝た。結局のところ、その日、理子は胃液だけになるまで吐き続けた。寝ながらもやはり吐いてしまう。そしてどうしても喉が乾くようで、「口をゆすぐだけにして」といって水を渡して桶にそれを吐かせた。
少し落ち着いて寝に入るのだけど、ふとしたときに起きて、水をこっそり飲んでしまった。するとものの数分後にはそれをまた吐いてしまう。水を飲んだら吐くという因果関係をまだ理解できない。だから僕が理子に嫌がらせをしているとしか思えないようで、「なんで飲んじゃだめなの」と涙ながらに言うのであった。

結局寝付いたのは深夜を大きく過ぎた頃だったように思う。
日付が変わった頃、隣の部屋で花さんは1歳年を重ねた。

翌日病院へ行くと胃腸炎と診断される。


日曜日、今度は玲さんが吐く。
僕の認識では、母乳を通して、赤ちゃんはこういった病気にはならないと思っていたのだけど、花さん自体が胃腸炎的なものの抗体を持っていなかったようだ。
4ヶ月の子がただただ白い液を吐く、ごぼごぼとした音は本当に聞いていて辛かった。そしてやはりこういったことは布団に入って寝静まった頃に起きるのであった。

火曜日、今度は花さんが吐く。
完全に一家パンデミックである。次々に家族を襲っていく。完全隔離体制である。理子を久々に延長保育した。理子には「ママが病気になったから、パパの言うことをちゃんと聞くんだよ」と言い聞かせた。
保育園で先生にママのことを話すと、隣で話を聞いていた理子が泣き出してしまった。
母はいつも優しくて強いというものなのかもしれない。

木曜日、ついに自分が逝ってしまわれる。
木曜に校了のものがあり、それで安心してしまったのかもしれない。夜中に寒気がしてきて、寝て1時間で起きてしまった。吐き気、腹痛、頭痛、発熱。
僕はまた2次災害を避けるべく、布団を隔離部屋へ移して一人で寝た。
金曜日は仕事を休ませてもらい、療養した。

いくら手洗いを細かくしても、マスクをしても、かかってしまうものはかかってしまうようである。
この冬にあと何度こういったことが起こるのか、考えただけでも恐ろしい。

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