「学校に傘置いてあるって言ってたけど、大丈夫かな?」
朝は降っていなかったのだけど、子供たちが学校に行ってからしばらくすると容赦なく雨が窓を叩きつけていた。
GWをほんの少しだけ早く始めることにした僕と花さんは在宅で仕事をしていた。窓の向こうは見事なまでの雨模様である。
昼食は家で昨夜の残り物を食べたが、全てを食べ切ることができなかった。我々の胃袋は40歳を過ぎた頃から急に小さくなっていってしまったようだ。それなのに腹は出てきてしまうから、中年の体型というのは都合よくいかないものである。
花さんが学校まで玲を迎えに行く間、僕は食器を洗い、生ごみを片付けた。
傘はきちんと学校にあったらしく、また、靴が濡れることもなく玲は帰ってきた。
そして仕事を続けた。
16時前に理子は帰ってきた。こちらは雨足が強まっていたこともあって、バケツをひっくり返したようなずぶ濡れ具合であった。履いていくはずの靴はびしょびしょである。
一縷の希望を託し、布団乾燥機のホースを両足に突っ込んでみた。出かけるまでの30分で乾くのか試したのである。
果たして、見事に靴は乾いた。アイリスオーヤマに感謝した。しかしとうの理子は、もうその靴を履いていく気分ではなくなったらしい。お出かけ用の靴で行くという。
雨がほんの少し弱まるらしいことをアプリで確認し、そこを見計らって家を出た。
空港に行くために渋谷駅を経由しなくてはならないことほど気持ちを萎えさせるものはないと言ってもいい。本当にこの駅が大嫌いだ。
みんなが思っているであろう「人が多すぎる!」という状態に一役買っている状態の自分達である。訳のわからない迂回と混雑を抜けて、成田エクスプレスに乗り込む。花さんはこの時点で既に外国人に話しかけられ人助けをしていた。
花さんが予約してくれたシートに深く腰掛け、本棚から悩んで持ってきた『国境の南、太陽の西』を読む。
空港に着くと、一通りの手続きをしてから、時間が少し空いたのでたこ焼きを食べた。どうしてたこ焼きだったんだろう?日本をほんの少しの期間離れるというのはソース味を欲することなのかもしれない。
巨大なガラス窓の向こうにある景色は、控えめに言って嵐のようだった。
「これで本当に飛行機飛ぶのかな?」と理子は心配そうに呟いた。
「飛ばない訳ないじゃん、大丈夫だよ」と僕は何の気なしに返事をしたが、本当に飛ばなかった。
予約された座席に座って、英語、中国語、日本語でアナウンスがされ、着席とシートベルトを促してからしばらく経った。ところが全くと言っていいほどに機体は飛行のステップを踏もうとしない。
「機長が受けた報告では」と何度キャビンアテンドが我々に告げただろうか。
あと20分で・・・
あと50分で・・・
あと20分で・・・
僕は一度オフにしたスマホの飛行機モードを解除し、雨の今後の動向をチェックした。どうやら数分後に雨が降り止むようだ。
そのタイミングがやってきて、飛行機は滑走路へと移動。
いつもより大きな揺れを伴って台湾へと飛びたった。
台湾には予定よりも数時間遅れて到着した。飛行機を降りると、夜中というのにまったりと暖かい。
タクシーに乗って空港近くのホテルへ。
ダブルブッキングという旅のスパイスを経て、キングサイズのベッドが二つ並ぶという広々とした空間で我々は寝た。翌日から僕にとっては8年ぶりの台湾観光である。
しかしこの時点で実はもう一つの旅のスパイスが待ち受けていたのであった。
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