台湾4日目。翌日の朝には飛行機に乗るので、この日が観光の最終日である。
食事を済ませ、部屋に戻り支度をする。しかし備え付けられた巨大なテレビには、なぜここで、というものが映し出されていた。ネットフリックスのタイムレスプロジェクトであった。
続きを見たがる理子をテレビの前から引き剥がし、部屋からようやくの思いで飛び出した。
この町には台湾シャンプーというのがあるらしく、女性陣はまずその店に向かった。僕は一人で街をぶらぶらと歩くことにした。体感的には碁盤の目のようにわかりやすい道だと思った。
そして、この町だけがそうなのかもしれないけれど、アーケードのように道は建物のなかにあるので、日差しが直接当たらなくて歩きやすかった。相変わらず物珍しいタギング、グラフィティを見て歩いた。そして台湾といえばNOE246であるが、ようやくそのステッカーを発見した。
一人の町歩きだからちょっとした不穏な空気感のある路地裏に入ってみたり、朝から営業している屋台のような店を覗いてみたり。急にもトイレに行きたくなって「台湾 トイレ」と検索したりしてコンビニに駆け込んだりもした。
この町にはファミリーマートがやけに多かった。数分歩けば小さな間口のそれが見つかった。台湾での名前は『全家』と書いてあったそのネーミングも面白い。
それとモスバーガーも多かったし、大戸屋もあった。その辺りは韓国とは違うカルチャーである。
シャンプーが終わったと連絡があったので、3人と落ち合った。感想を聞いたところ思っていたようないわゆる台湾シャンプーではなかったらしい。これも旅のスパイスであろうか。
この日は猫カフェに行くことになっていて、電車で違う街へ移動した。三越があったりするようなエリア。その三越の一階にはLE LABOがあり、サンタマリアノヴェッラがあった。良い香りに包まれた空間だった。その奥にはニューバランスとビームス。どういったコンセプトなのかわかりかねるけど、その辺が売れ線ということなのだろう。
最上階には誠品書店があった。こういったカルチャーに触れるのはやはり楽しいものだ。
花さんは目的の店があったようで、その店で土産物を物色していた。
僕はフロアをぶらぶらとしてみたのだけど、三越という日本でのイメージとは全く違っていて、小さな店が多く点在していた。ハンドクラフト的な店や、アクアリウムの店、ファンシーショップなど。日本の三越的な感覚でいると不思議な規模感だった。
その後は小籠包が美味しいという店に向かった。
蟹味噌風味の小籠包と普通のもの、チャーハンと玲用にラーメン。空芯菜の炒めものに、台湾ビールを注文した。
料理を待っている間のような、こう言った手持ち無沙汰な時、玲はYouTubeを見ていたけれど、理子は持参していた「世界一クラブ」を読んでいた。YouTubeを見たいということは稀だった。電車に乗ってる時、バスに乗ってる時、カバンからこの本を取り出して読んでいた。なんだかとても素敵な習慣を身につけたものだ。
料理が続々と届いた。小籠包はやはり美味しいし、円卓をくるくると回して料理を取り分けるのも本場感あっていいものだった。食事が楽しいと旅行自体の格が上がるような気がする。
満腹の状態で猫カフェのある街へ移動した。ここは日本で言えば渋谷原宿のような街だった。駅を降りるとH&Mや若者向けの店が軒を連ねるような場所だった。
あらかじめ予約していたのですんなりと入店する。5-6匹はいたのではないだろうかという猫たちと、ポメラニアン。
店のシステムとして一人500元は使わなくてはならないらしいが、満腹な我々にそれはむずかしいことだった。レインボーケーキや、猫の形をしたボトルに入った紅茶やあまいピンク色の液体を注文したけれど、そもそも子供たちは席に着くことはなく、猫を追いかけて店内をあっちに行ったりこっちに行ったりとしていた。
いつぞや日本で体験した猫カフェとは何もかもが違っている。まず衛生観念が違う。ひょいっとテーブルに乗ってくる猫がいるのに、普通に食事ができるスタイルだからである。隣のテーブルではがっつりパスタを食べていたが、糞尿の匂いがする中では自分にはちょっとできない芸当である。
良い点としては猫や犬がとてもフレンドリーということである。撫でても拒否されることがあまりないので、理子も玲も嬉しくて仕方がないといった感じだった。僕も動物からしか得ることのできない癒しを堪能していた。
花さんも堪能していた結果、普通に寝てた。よほどリラックスできたようだ。
店員の男性は最初現地の言語を話してきたけれど、私がジャパニーズオンリーソーリーなことを伝えると少し悲しそうに、でもなにかを伝えてくれようとした。それはこうすればもっと猫が懐いてくれるとか、いま写真を撮ったほうがいいなどの楽しむ方法の伝授だった。そういった気持ちはとても嬉しいものだった。
タイムリミットとなり、会計をすると、一人500台湾ドルで2000台湾ドル、それになんやかんやとついて、支払いがなぜか米ドル支払いになって1万円を超えていた。キャバクラに行ったらこういう気持ちになるのかな、と思った。
平日というのにこの町は人で溢れている。もちろんツーリストも多いのだろうが、そもそもの熱量みたいなものが根本的な部分で存在している気がする。昔の日本もそうだったのかもしれない、と思うが、渋谷も外国人から見たら僕と同じように熱量を感じるのかもしれない。
僕にとって2度目の台湾は、前回とは全く違っていた。成長した子供が意思を持って行動していたし、旅の姿というのはこれからも毎回何かしら違ってくるのだろうと思う。結局そのうち夫婦だけでいく、という旅行になったりするのかもしれない。
最後の食事はホテルの近くのルーローハンが美味しい店だった。
食事はもちろん美味しかったが、中年の集団が部屋を貸し切っていて、誰かの誕生日を祝っているらしいその様子が
とても自由で楽しそうに見えた。月曜日だというのにだ。この国はいい国なんだろうと思った。
翌日、日本に帰国した。台湾では降らなかった雨模様だった。
雨にはじまり雨に終わる旅だった。
次はどこへ?花さんに聞いてみるともう次の旅のプランが頭の中にあるらしい。彼女は嬉しそうに笑った。