2018年10月18日木曜日

ピンクをこよなく愛する女

遺伝子に組み込まれているのか知らないけれど、理子はピンクをこよなく愛している。
我々夫婦の遺伝子にはないからおそらく突然変異である。

朝、花さんが理子の着替えを用意している。
秋も深まってきたことだし、えんじ色のズボンを履かせよう。
それに合わせるのは、この間買ったフルーツオブザブルームのロンTにしよう。
花さんが選ぶに至る思考が、手に取るようにわかるコーディネートだ。
僕は少し離れたところから、「うんうん、おしゃれだ。用賀一おしゃれだ」などと思いながら見ている。
しかし同時に、こうも思う。「絶対これ着てくれない」と。

「理子ーお着替えしよう!」と花さんが言った。
理子は提示された服を見るなり、「やだ」と言う。たったの2文字だけで気持ちを伝えることに成功している。
花さんも分かっている。着てくれないことくらい。我々にはいつもプランBがあるのだ。
しかし今回はそれすらもダメだった。おそらく服ではないところに不機嫌になる要素があるらしい。面倒な女である。その感情を着替えに持ち込まないでいただきたいものだ。

うすら寒いけど、ピンク色の半袖を選ぶ。そして、ズボンも、ピンク色を選んでしまう理子。
この時期に着ることのできる薄手のアウターは、悲しいかな理子の好きなピンク色のスカジャン。そして靴もピンク色であった。

もう仕方がない。
全身ピンクとなった理子はご満悦で家を出る。マンションの清掃のおじいさんにもご機嫌で挨拶をする。孫が同い年くらいだという彼の目は、優しいおじいちゃんそのもので、全身ピンクだろうが関係なく可愛く映っているようである。

方や、私といえば全身黒。どうしてこうなってしまうのかしら。

「クリストファーネメスの娘も小さな頃はセーラームーンの服を着ていたのよ」
そんな言葉が私の心の支えになっている。

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