2017年12月1日金曜日

韓国旅行2日目 買い物天国編

おじさんの朝は早い。
体を移動させるというのは実際に体を動かしたりしなくても疲労となるものだろうに、もうちょっと寝ておきたい1時間まえくらいに目が覚める。
完全な闇のなかで、カーテンの隙間が一つの光線を切り出している。そこに手を差し込んでみる。セントラルヒーティングで温まった部屋なので、ベッドから出るのも苦ではなかった。
カーテンの向こうでは雪が降った後の景色が広がっていた。地面には白く雪が積もり、ソウルタワーのある山の木々にも雪化粧がなされていた。4車線くらいはある蛇のようにくねくねした道路は、ヘッドライトを煌々とつけた車達が、都心へと向かってきて渋滞を作っていた。そこには雪の姿は見られない。
しばらく僕は窓際に立ち、カーテンの中に入り込んで部屋が明るくならないようにした。
カメラを持って窓越しに写真を撮る。僕の呼吸によって、窓はだんだんと曇っていった。

ホテルというのは基本的にワンルームであり、隣人を起こさないようにするには自分がこの部屋から出ていく必要がある。バリに行った時も、結局のところ散歩がしたいから外に出たというよりは、花理子を起こさないように時間を潰すには外に出るより他仕方がなかったからだった。

しかし今回は、窓の外に広がる世界に飛び込んでいく勇気はなかった。なんといっても寒そうなのである。身も凍りそうな0度の世界だ。まだ歩いている人の姿もない。幸いベッドは二つあり、僕は一人で使用していたので、ベッドに戻りネットサーフィンをしたり、窓辺で写真を撮るというのを繰り返していた。

そのうち二人が目を覚ました。
花さんの誕生日の始まりである。


誕生日ではあるけれど、花さんは朝食を調達してきてくれた。
「おいしいトースト屋さんがあるらしいの」と言って寒いことも苦にはならなそうに出て行ったのだ。もちろん、しおりに書かれている。
しかし気がせったのか、花さんから「ルームキーを忘れたから、帰りにエントランスまで迎えに来て・・・」と連絡が来た。Wi-Fiも置いていったから大変であっただろう。

20分ほどして花さんは帰ってきた。おいしそうなトーストとコーヒーも買ってきてくれた。理子にはフルーツジュースだ。
韓国の人は朝食を家で食べることがないのか、キンパしかり、こういった軽食屋さんが多い気がする。
噂通りにトーストは美味しい。ピリ辛のソースに控えめな甘さが混ざり、癖になりそうな味だった。

食後、理子が色々な引き出しを開けまくるという3歳児あるある儀式が速やかに敢行された。開けなくては気が済まないのだ。
ベッド脇にあるライトスタンドが置かれたサイドテーブルに、聖書が入っていた。
ページを開くとそこには鉛筆でサイトンブリが描いた記号の羅列のようなものがあった。一目見てそれは何かがわかった。もちろんサイトンブリによるものではなく、幼児によるいたずら書きである。聖書のありがたみなど微塵も感じさせない力強いタッチである。
思わず僕は「理子じゃないよね?」と言ってしまった。
理子はどうやらこの聖書がとても気に入ってしまったようで、僕たちに読み聞かせを始めた。ベッドに我々を座らせて、ページを僕たちに見せながらオリジナルの話を展開する。その話はアナ雪のセリフやフジファブリックの「若者のすべて」の歌詞が混じったりしていた。ぶっ飛んでいるのである。その柔軟さが僕にも欲しい。


支度を済ませると、理子をベビーカーに乗せてホテルを後にした。
路上には溶けきらない雪が白く残っていて、冷たい風が吹いていた。なるべく日向を見つけて歩いた。繁華街に近いと両替商も多くあって便利だった。事前調査でレートが一番良いとされるところに行き、円をウォンに変えた。
朝も早いというのに行列ができていた。日本でこういう場所を見ない気がするのだけど、どうしているのだろう?

地下鉄で3駅くらい離れたところにある、ソウロルという場所に行く。もともと道路だったところを人が歩けるようにしたものらしい。ここはまだ設備をこれから整えていくという感じだった。そこかしこに、入場できないようにテープが貼られていた。子供が遊べるところという前評判もあったのだけど、目当てだったトランポリンも入れずだった。
それでも子供というのは少しでも広いところがあれば駆け回るもので、楽しそうだった。

しばらくしてから今旅のメインイベントでもある服の狩りに出かけることにした。子供服の問屋街だ。その通りに一歩足を踏み出すと広がる景色はまさに狩場で、両手にビニール袋をこれでもかと抱えたオモニや、観光客の姿で溢れている。気取ったショッパーなんかではない、ビニール袋に服を突っ込んでいるのだ。
すぐに目に入ったのは帽子屋だった。色とりどりで種類も多い。店先にはワゴンに入りきらないそれらが、大きなビニール袋に入れられて地面に置かれている。まるで天国のようなカオス。
花さんの買い物スイッチの入る音が、これでもかと僕の耳に入ってきた。
カーン!


しかしながら、「よくここまでおおっぴらにパクるな」と思う。靴屋に入れば 「バレンシアガ」や「ゴールデングース」を模倣したものが置かれていた。「それ子供用にしちゃうの!」と思わず膝を叩く。子供用に小さくなったそれは、悲しいかなとても可愛い。 ZARAだって同じようなことしてるじゃないか、とも思うのだけど、ここに並べられているのはそれとはベクトルが違う。マルパチなのだ。
かわいいけどもちろん買わない。見るだけ。

洋服の売られている店に入ると、早速花さんの手に握られるめぼしい商品たち。「爆買い」という文字が、花さんの背中に見えるようだった。おとなしくベビーカーに乗った理子は、大人たちの嬉々とした顔を見てうんざりしたのか、寝に入ってしまった。
前回同様、店先に並んだかわいい服とのギャップがありすぎるオモニな店員。80年代に生きていた日本人のおばさんのような風体。やはりここの場所は政府が管轄していて、強制的に人員を割り当てられた場所なのだと思わざるをえない。ビニール袋に無造作に入れられた洋服たち。ブランド名など、あってないようなものにしか見えない、とってつけた感が満載。問屋街という位置付けだからなのかもしれない。それでも360度かわいい服で溢れている。
やはり大人用のトレンドをうまく取り入れたものが多い。そして本当に気が利いているな、って思う。「そうそう、ここに切り返しがあるとかわいい」「色違いで何枚も欲しい!」となるわけである。一般的に思われるような子供服らしいかわいさ、ではないシャープさがここの場所には揃っている。それなのにとてつもなく安い。例えば800円で売られていたリブのパンツは、一般的な店では3600円をつけて売っていると思われるものがゴロゴロしている。

しかし問屋街という場所柄、歩けるスペースはとても狭い。いくら子供に対して寛容なお国柄とは言え狩場にベビーカーは不釣り合いだった。僕はちょっとしたスペースを見つけて花さんの狩りの終了を待つことにした。そうして人間観察を始める。
店員と可愛い服たちのギャップもさることながら、買い物をしているオモニたちの普通っぷりも際立つ。自分はおしゃれに気を使ってないけど子供服は可愛いものが欲しい、ということなのだろうか。

「あの服、『lanvin』 って書いてある・・・」と思った頃、花さんがやってきた。やはり成果物がこれでもかと手に握られている。満足度は65パーセントといったところか、そういう表情をしている。
それを見ていたら僕のスイッチも入ったようで違う店に入った際、ついに僕も財布を開いてしまったのだった。滅多に買い物をしない僕が買ったそれは、さながら「ヴェットモン」のように、2つのスウェットを半分で切って貼り合わせたようなものだった。
結局そのあとも買い物を続け、花さんの満足度が80パーセントくらいになった頃、問屋街を後にした。
そうして僕たちは、リュックに入りきらないものたちを携え、昼食を食べに行くのだった。


まだまだ1日は終わらない。



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