2017年2月28日火曜日

台湾旅行記 夜を使い果たして

日が少し傾き始めた頃、街中に出てみることにした。
日本から持参したベビーカーを組み立てて、理子に話しかける。「ベビーカー乗ろうか?」そういうと、理子は意外にも素直にシートに体を沈めた。ベルトを固定する留め具のところが丸い形をしているのだけど、それを見て「ルンバさん!」と言って理子はお気に入りなのだった。しめしめと花さんと僕は握手を交わす。カード式のルームキーを壁のセンサー部分から抜き取ると、意気揚々と台湾の街へと繰り出した。

台北駅があるこの街は、日本でいえば丸の内のようなところだと花さんは言った。さしずめ台北駅は東京駅といったところか。ホテルから出ると少しモワっとした空気になったのだけど、不快なほどではなかった。
3人で見知らぬ街を散策する。街中に溢れるノイズも太陽の光も日本で感じるそれとはやはり異なっているように感じる。わくわくする気持ちの中にちょっとした緊張もたぶんに含まれている。台湾は一方通行の道が多いらしいとどこかで見聞きしたのだけど、確かに一方向に対して5車線ぐらいあって、反対車線は見られなかった。
我々は地下鉄に乗って、夜市が開かれている街へと向かうことにした。もちろんこれはしおりに書かれていることだ。
地下鉄に乗るためにエレベーターを探し、見慣れぬ標識に戸惑った。そして漢字でしか書かれていない券売機の前でしばらく硬直し、恐る恐るお金を投入した。目的の駅までのボタンを押すと、渇いた音を立てて切符がでてきた。それは青色のプラスチックでできたのコインのようなものだった。まるでモノポリーなどのボードゲームで使いそうな。
そのコインのような切符をどのように使うのか?改札にはそれを投入するような口もないが、センサーのようなものは見えた。そこにその青い切符をあてがってみたけど、ゲートは冷たく閉ざされたままだった。沈黙。
周りの人、すなわちこの街の居住者たちは、東京でいうところのSuicaやPASMOのようなカードを使用していた。
そこへ心優しい青年が現れ、改札のここにそのコインを当てるんだ、と言った風にみぶりてぶりで教えてくれた。立ち尽くしてしまっている異邦人を、台湾人は救ってくれた。
ベビーカーを押していたため、間口の広い改札を通ったのだけど、そのすぐ先にエレベーターがあった。こういった構造はこの駅だけではなく、他の場所でも見られたので、台湾の弱者への扱いが垣間見えるものであった。
電車に乗るとやはり東京の地下鉄とは全く違う座席の配置をしていた。そして、飲食が禁じられているというのは興味深いことの一つだった。

我々は2.3駅先で降りた。地上にでると、すでに日は沈み、街灯によって街は照らされていた。夜市がやっている場所は地図を見て確認した。僕は地図が読めない質なので、花さんが僕を誘導した。そのうち人の流れが、ある方向へと集中していって、その先には人だかりがあるように見えた。どうやらそこが、我々が目指している夜市の場所であるらしかった。小さな屋台が密集し、様々な色彩と匂いと、ある種の興奮をもたらしていた。そこには地元の人間や(なんとなく服装でわかる)欧米人、日本人、他のアジア圏の人々で溢れていた。正直なところかなり圧倒されるような場所だった。そして美味しそうに調理されていく様をまざまざと見せつけられるのに、それを食べたい!と伝える方法が僕にはわからないでいた。なにせメニューに書かれたものを発音できないのだ。
とりあえず一通り見てみようと言って、人の流れに沿って見て回り、これ食べてみたい、あれも、これも、それも、となるのだけど、どうすれば食べられるのか?
座席が用意されている店もあるけど、そうでない店もあった。
花さんはある店の前で立ち止まり、しれっと列に加わった。さすがは何国も旅をしてきた女である。楽しむことを躊躇わないのである。並んでいる間に、若いお兄さんが調理するそれをずっと見ていたのだけど、実に手際がよかった。あらかじめ用意している小麦粉でできた生地を、伸ばし棒で薄くして、それを油の中へと投入する。その生地の上にネギなどの薬味を実に手際よく入れ、そして卵を溶いたようなものをまぜ入れていた。そして器用にくるくると食べやすいように丸めた。
花さんが実際に発注する際、中国語で何かを聞かれたのだけど、疎通がとれないとわかると「バジル?」とだけ聞いてきた。「オーケーオーケー」と答えた。
食べてみると、それはほんの少しの辛さはあったものの、とても美味しいものだった。まるで祭のような雰囲気のなかで食べているというのもあるのかもしれないけれど、それを差し引いたとしても絶品だった。それなのにとびきり安かった。
屋台ではビールなどを売っている店がなかったので、コンビニ(なぜかファミリーマートが多かった)で台湾ビールを買い、路上で二人で乾杯した。
アルコールを摂取したためか、もっと他のものを食べたいという欲求に忠実になることができた。テーブルがある店ならとりあえず座ってみよう、そして店員を呼んでみよう、怒られたとしても何言ってるかわからないじゃないか、ここは異国じゃないか。
テーブルの上にはメニューがあったので、指さしをして店員に発注した。あっという間に注文したものは運ばれてきた。ルーローハンとチーローハン。そして青菜炒めだ。ご飯ものに関して言えば、どちらも美味しく、甲乙つけがたし、と言ったところのだけど、青菜炒めは妙に美味しかった。理子もよく食べた。なにか特別な味付けをしているからなのか、それとも海外で、とびっきり開放的な気分のなかで食べるからなのか。
おそらくその両方なのだろうけど、とにかく我々は夜市を満喫していた。本当はもっといろいろなものが美味しそうで魅惑的で食べてみたかったのだけど、胃袋はそれを許してくれなかった。しばし夜市の雰囲気を堪能すると、軽く酩酊していたこともありタクシーで帰った。
ホテル近くのコンビニ(やはりここでもファミリーマートだった)でビールを購入し、日本語が書かれたお菓子を買い求めた。
そしてホテルに戻ってビールのプルタブを引く。

台湾の夜はまだ続くのであった。

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