平日の朝である。
私は隣にいる眠り人を起こさないようにそっとベッドを出る。
朝はいつもラジオを聞いている。
下世話な話などを流さず、音楽のみを流す番組である。
朝から情報が多いのは嫌いだ。
トーストにチョコレートクリームを塗って、オーブントースターでこんがりと焼く。
マグカップにインスタントコーヒーを入れて、ウォーターサーバーでお湯を入れる。
朝から夏の暑さでうんざりしてしまうがコーヒーはホットを飲むようにしている。
しばらくすると、上階から足音が聞こえた。階段を下りてくようだった。
「おはよう」寝ぼけ眼で彼は言う。目には目やにがまだついている。
あくびをしながら、少し深めの皿にコーンフレーク、豆乳コーヒーを入れて混ぜる。
最近のお気に入りの組み合わせのようだ。
彼はそれをあっという間に平らげると、キッチンのシンクにそれをおき、水で軽く流している。
私は鉢植えに水をやりながら歯を磨く。
新しい芽が次々と顔を出し、鉢植えから溢れんばかりだ。
10時になると、ラジオのDJは違う人へと変わる。
彼も家を出る時間だ。
「行ってくるね」彼は言う。
「今日は燃えるゴミの日だから、ゴミ箱を出してくれる?」
私はそう言うと、
「それじゃあ変わりに自転車を押してね」と彼は言った。
玄関の外に置かれたゴミ箱を彼が運び、彼の自転車を私が押して外に出る。
それじゃあ今度こそ
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
彼は自転車を漕ぎ出し、振り返って手を挙げた。
そして、もう一度、角を曲がる前にこちらを見て手を振り、やがて姿は見えなくなった。
一人になった部屋で、今日一日のことを考える。
天気がいいのでスニーカーを洗うことにした。
バケツいっぱいに水をはり、すこし洗剤を混ぜてタワシでゴシゴシと洗う。
白いスニーカーの汚れはみるみるうちに落ちていく。
蝉の鳴き声とラジオから流れる心地よい音色。
首筋を伝う汗もどこか気持ちいいものにすら感じてしまう。
私の靴と、彼の靴。大きさがまるで違うそれらがテラスに仲良く並び、
太陽の光を浴びている。
時計を見ると、まだ12時を過ぎた頃だった。
彼が戻ってくるまではあと何時間もある。
あと半日、私は何をしよう。
エアコンをつけた部屋の、大きなソファに横になって考える。
カーテン越しに入る夏の日差し。蝉の鳴き声。
私の一日はまだ始まったばかりだ。
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