「なにはなくともホテルにあるプールに入りたい」というのが娘たちの要望である。
朝、目を覚ますと、カーテンを薄くあけて外を眺めた。天気が悪いのがわかる。暗い空だ。
しかし朝食を食べ終わったあと、娘たちは言う。「とにかくプールに入りたい」。
一択であった。
大人たちは「天気がもってる間に行けるところに行きたい、竹富島に行きたい」という希望を持っていたのだけど、旅の成功は子供たちをいかに誘導するかにかかっているといっても過言ではないので、まずは素直に従うことにした。
建物の外に、デザインがなされた洒落たプールが鎮座していた。
プールのロッカー室というと、なんともジメジメして不快な匂いが漂うイメージなのだけど、ここのそれはデザイン性のある湾曲した壁面だったり、男子用のロッカー室のくせにまったくの無臭であった。シャワー室やトイレもきれいである。そんなものがこの世には存在するらしい。
プール脇にあるリクライニングチェアやテーブルなどはすでに他の客に制圧されており、我々は隅の方にまるで忘れ物のように荷物を置いた。
ここはただ四角いプールに短めのウォータースライダーがついていた。気が利いているのである。
浮き輪でただプカプカと浮いたり、張り切って泳いでみたり。水中で睨めっこしたり追いかけっこなど、思いつく限りのことをした。
ただの四角いプール、それだけで十分なのだ。ただ人が多い。稲取荘のプールが恋しくなったのは言うまでもない。
時折雨が降り、止んだ。そういったことが何度か繰り返されて、もうそういうものなんだろうと理解した。これが石垣島のスタンダードな天気なのだ。
楽しいとは言え、いい加減プールから出たい。という段になって、娘たちもそれに応じてくれた。
いよいよホッピングである。竹富島へと向かうことにした。天気なんて雨が降ったり止んだりするわけなので、ホテルで傘を借りてとにかく出かけようじゃないか。
夕方過ぎからジャングルナイトツアーが控えているため、長袖を用意し出発する。
フェリー乗り場に着くといい感じに、いなたいお店がいくつかあり、そこでポータマを食べたり、美味しいと噂のシェイクを飲んだりした。こういったちょっとつまむものが最高であった。
雨は降っているがフェリーはとくに大きく揺れることもなく竹富島へと無事に上陸することができた。
フェリー乗り場では「水牛ツアーに参加する人が乗れるバス」というのがあり、それに乗ることにした。受付には大勢の人がいて、悪天候なんてなんのそのという強者が多くいるのだなと思った。
そして雨は、降ったり止んだりを繰り返していたけれど、そのうち青い空が顔を出す時間が伸びていった。
この竹富島の集落は、碁盤の目のように区分けされていて、迷い込んだらなかなか行きたい場所にたどり着くのが難しそうである。しかし訓練された水牛は長い時間をかけて道を学習し、10人近くの人間を乗せた車がその狭い道を曲がれるために、どのように動けば良いのかまでを把握して進むことができるらしい。とてもお利口さんなのだ。
ガイドのお兄さんがそのように教えてくれた。
すっかりと雨の止んだ砂の道を水牛はゆったりと進んでいく。急ぐ必要なんてない、ここは竹富島だぜ?と言わんばかりである。
ガイドのお兄さんは三線という楽器を奏でながら民謡を歌ってくれた。合いの手を入れることもできない知らない曲だけど、ゆったり流れる景色と色あざやかな花を眺めながら身を委ねた。
水牛ツアーを終えると、自転車を借りて散策することにした。花さんは後ろに玲を乗せて走った。途中、目当ての店に入って食事をとった。なぜか一番人気のカレー蕎麦というものがあり、僕はそれを注文した。玲はお腹が空いていないといってかき氷。花さんと理子はそれぞれソーキそばを頼んでいた。
確かにカレー蕎麦はうまかった。ホテルの朝食にも八重山そばなどはあったので、ちょっとイレギュラーなものが食べたくなるようだ。
食事を終えると、砂の道に慣れずに苦労しながら海へと向かった。沖縄特有だなと思うのだけど、濃い緑が生い茂ったトンネルの先に、美しい景色が広がっている。
時間帯的に干潮で、海の先端は遠いところにあった。砂浜には白くて小さいすばしっこい蟹がいた。そういった見慣れない生き物を見るとワクワクした。
二人はあえて波打ち際に落ちている枝を使って文字を書くということをして、それが波によって消えるのを楽しんでいた。
きっと何十年、下手したら数百年前からある儀式であろう。
海の中に入ると水はちょっと暖かく、心地よかった。
自転車のレンタル時間の終了があっという間にやってきて、急いで帰る。しかし碁盤の目の道が思うように望んだ場所へと向かわせてくれなかった。人が居住している家も外観が同じようなものばかりなのである。
自転車の返却を済ませると、電話予約が必要なバスに乗ってフェリー乗り場に戻り、石垣島へと戻っていった。
そうして、この日の最大のイベント、ジャングルナイトツアーを迎えるのであった。
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