2010年6月23日水曜日

亀とウサギと

白々と東の空がグラデーションを描いていく。静かに。

やがてそれは、一筋の光の線を作って部屋の片隅を照らし出した。
僕は、自分がどこにいるのか皆目検討がつかない状態だったが、その光によって得られる情報を頭のなかに入れていった。その部屋の床はコンクリートが敷かれ、大きなガラス窓によって外の世界と遮断されていた。壁際には白い布の固まりのようなものが置いてあった。ドアらしきものはあるが内側から開けられるようなしくみにはなっていないようだった。
光の筋は、時間とともに拡大していって、ついには部屋全体を光の洪水で包んでいった。そして僕はその光に目を慣らしていくのと同時に、部屋の異変に気づき始めていた。
「自分以外の生物が、この空間のなかにいる」
僕の体のセンサーが全力で警戒信号を鳴らした。「ここにいては危ない、なにかが起こってしまう」と。
しかし僕はなにが起こるか知りたかった。この目で確認したかった。
僕の目の端の方で白い固まりが微かに動いた。僕はその方向に体を向けると深呼吸をした。「なにが起きても動じない」僕は心の中でつぶやいた。目をそらさずに見続けた。
やがて白い固まりは、そのすべてを僕の前にさらけ出した。長い耳に短い足。赤い目。ウサギだった。
ふと窓の方に目をやるとウサギの他に、緑色の物体の姿を認めた。亀だった。それは僕だ。

神様はあのときの決着をつけさせようとしているらしい。
やれやれ
僕はただでさえ歩くのが遅いのに、さらに重い足取りでウサギの元へと向かった。


続く。

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