パズルが見事にカチカチと音を立てて組み合わさっていった一日だった。
朝、僕は久々に朝風呂に入った。朝の5時のことである。ネットフリックスを立ち上げ、適当な映画をチョイスしそれを見始めた。外は暗く、まだ夜と朝の狭間のような時間であった。映画を見始めると次第に空は明るくなってきた。それはすりガラス越しにも晴れていることが分かる空だった。
前日の土曜日、延期になった運動会の開催日だったけれど、願いを込めて作ったテルテル坊主の涙が降り注ぐが如くの冷たい雨の一日だった。そんな虚しい時を過ごしていた理子は、この気持ちを発散したがっていた。そういったわけで、日曜日はどこかへでかけようと思った。
風呂から出ると、すでに花さんと玲は起きてリビングにいた。うっすらとホットコーヒーの香りが漂う。まだ理子は起きていなかった。
「今日、どうする?」と僕は花さんに意見を求める。すると、すでにいくつか見当をつけていた。さすがである。
花さんが調べたところ、動物園や水族館などはすでに入場券が完売していた。きょうび、当日に思い立って上野動物園に行くことなどできないのである。候補としては、横浜に行って中華を食べる。後楽園遊園地にいく。こどもの国へ行く。などのアイディアが挙げられた。そして僕はこどもの国がいいんじゃないかと賛同した。晴れているし、理子はとにかく走り回りたいだろうと思ったのだ。そして最近練習しているなわとびもやりたいだろう、と。
そんな話をしていると低血圧ガールの理子が、眠い目をこすりながら起きてきた。我々の意見を彼女に伝えると、一気に目が覚めたようだった。
「9時半には家を出る」という宣言の元、我々は支度をした。
こういった時の姉妹の支度は早く、9時を過ぎた頃には支度が終わった。リビングの掃除はルンバにお願いした。「理子、ルンバさん出動だ!」そういうと、理子は「ほいきた!」と下に置きっぱなしになっていた小物たちをテーブルの上に避難させた。掃除の75%が終了したようなものだ。
大きな音を立てながら部屋を徘徊するルンバを不思議そうに眺める玲。玄関で靴を履こうとした時に突如グズリが始まった。スムーズに靴が履けなかったことが起因して玄関で大の字になってしまった。次女のぐすりは長引く、というのは定説なのだろうか。思いつく限りのことをしてみたがそれは収まらなかった。
このままでは理子もまずい、そう思い、花さんに玲を頼み僕は理子を外へ連れ出した。
外はいい天気だった。
しかし10分たっても二人は現れなかった。うっすらと外にも聞こえる泣き声。泣き止む方法を本人が忘れてしまったようである。理子は縄跳びの練習を始めてしまった。
結局、抱っこ紐に玲を詰め込んで家を出た。ずっしりと両肩に11キロがのしかかる。
電車に乗って溝の口に着いた時、ふと見上げたそこには友達一家の姿があった。コロナも相まって数ヶ月ぶりに会う友達の姿に、理子はとても喜んだ。久々に会った友達たちが交わす一通りの挨拶が済むと「で、今日はどちらへ?」というと、まさかのパズルのピースがはまったのであった。
「こどもの国だよ」
玲が泣き止むのがあと数分早かったら、または数分遅かったら。そおそもスムーズに靴が履けていて、玲が抱っこではなく歩きだったら。道端に咲く花に目を取られていなかったら。自動販売機で飲み物を買わなかったら。
いろんな可能性がある中で、こんなふうにパズルが組み合わさることがあるのだな、と思った。そして当然のことのように、このような過程を経てできたパズルはとても楽しく、新しい出会いもあり、彩り豊かなものになったのである。