まさに台風とともに、沼津から一家がやってきた。姪っ子3人と兄夫婦。
理子は三姉妹と遊べることに一喜一憂しつつも、ばあばが沼津に帰ってしまうことも理解していた。そのことで涙を流してすらいた。
前日までのニュースでは、台風の進路が絶妙であったけれど、彼らは無事にやってきた。
一家5人が移動するのは容易なことではなく、大荷物を抱えていた。
家についてしばらくすると、風が強くなり、雨が降り出し、やがて大嵐となった。じつにタイミングが良い。
姪っ子たちはプリキュアを知らずに育っているので、理子がユーチューブや録画したそれを見ながらダンスレッスンし、また、それに興味のない子たちは、各々理子のおもちゃを使って適当に遊んでいる。
どうしてそれで?と思うような幼児用の単純なおもちゃを、ただただループしてやっていたりする。
玲ちゃんはうるさくなった部屋でもおとなしく寝ている。理子が生まれた頃は少しでも音を立てないようにと忍びのように暮らしていたのは意味がなかったのかもしれない。
雨脚は弱まったり強くなったりを繰り返していた。そんな中、おかんとりえちゃんがコンビニへ行き、飲み物や食料を調達してきた。その時はほぼ雨が止んでいて、家に帰ってきたと思ったらまた降り出した。タイミングの良い人たちである。
しかしあれだ。姪っ子たちは階下に気を使うということを知らずに生きている。部屋の下に誰かが住んでいるということがわからないから、平気で全体重を使って床をドンドンするし、ドタドタ走るし、とにかくやってほしくないことをイチイチする生き物たちだった。
たったの一泊二日のうち僕はいったい何回マジなトーンで怒ったかわからぬ。なんでそういうこと思いつくかなということをさらっとやり、こちらが怒れば怒るほど新しいおもちゃが手に入ったかのように暴れる。
静かにさせようと暗いクローゼットに入れると、キャーと言って喜ぶし、この酷暑の中、エアコンをつけているとはいえまずいと思ってそこから出そうとすると、今度は出てこない。つまりは全てが大人の意図とずれまくっている。
当たり前だけど、昼寝などしなかった。フルスロットル。マスタングAゴーゴーだ。5分に一度誰かが泣いて、大嫌いと罵り合っても数分後にはまた笑顔で遊んでいた。
花さんと玲ちゃんは外に出られないのだけど、その他の8人が食事をするのに外へ行こうともともとは思っていたのだけど、それができるような天候ではなかった。
仕方がないので、ピザをデリバリーしてもらうことにした。Lサイズを2つ頼んだけれど、子供たちはあまり食べなかった。ピザだぞ。きみたちはいったい何だったら食べるのだ?
お風呂に入るのも一苦労であった。当たり前だけどみんなで入りたいと言い出す子供たち。つまり4人だ。僕はまず一番手のかかる三番目から着手し、一人一人風呂の外へ出していった。一番上の羽咲はさすがは小学生。自分で洗い、自分で出て行った。
浴槽のお湯は心なしかもう濁っていた。
風呂が終わると眠るわけだが、誰と寝る、どこで寝るという一悶着がやはりあって、誰かが泣いて、誰かが怒られて、1日の最後はぐずぐずの中終わるのだった。
いつかはこの渦の中に玲ちゃんも加わるのだろうか。ゆっくり大きくなってくれよ、と
思わざるをえない。
翌日、天気は回復していたけれど、羽咲は調子が悪いようで熱を出していた。
朝食は前日の残りのピザを食べたり、チョコクリスピーを食べた。
しばらくして、二子玉へと出かけた。
お祝いの品を買いたいということだったので、高島屋に行ったりツタヤ家電に行った。
子供たちは1ミクロも面白くなさそうだったので、かき氷を食べさせた。ひとつ800円くらいする代物。確かに普通のシロップではなく、ガチな果物の味がするものではあったけど、子供たちは上手に食べることはできず、小さな器からこぼれ落ちた氷はあっという間にテーブルの上で溶けていった。
羽咲は本当に調子が悪いようでまったく食べなかったし、その後ベンチでずっと寝ていた。
H&Mで理子の服を買った。ワンピースのひらひらした服を、プリンセスと呼び、それを身につけたがるので、バリエーションを増やしたかったのだ。へたに選ぶと確実にだれかとかぶるので、慎重に選ぶ。ピンクと白のストライプのノースリーブワンピースを発見し、それを理子の背中にあててみると、本人も気に入ったようだったので買うことにした。700円の値段がついていて、レジに持っていくと600円になった。
一通り買い物が終わって、家に戻ることにした。
家に戻ると、嘘のように羽咲は元気になった。笑顔で溢れている。どういうわけなんだろうか。
僕はなんだか疲れてきていたので、一番奥の部屋で横になってユーチューブでフジロックを見ていた。すごい時代になったものだ。
アンダーソンパークが良かった。オフホワイトのスニーカーを履いていた。
僕はそれを見ながらいつのまにか寝てしまっていたらしい。「帰るって!」という花さんの声で起きた。
いよいよオカンの帰沼である。理子は号泣している。
3姉妹たちといくら泣かして泣かされても、楽しいことには変わりないわけだ。
駐車場まで荷物を運び、玲ちゃんも花さんも見送ってくれた。
車が見えなくなるまで手を振り続ける。台風とともにきて、ともに去っていった彼ら。
僕らはついに4人での生活が始まった。
部屋に戻るととても静かだった。