2020年9月17日木曜日

いつの間にか

理子の身長が115センチになった。

保育園で毎月測定してくれている健康手帳を見るのがたのしみの一つなのだけど、それは何と言っても毎月少しだったり大幅にだったり、目に見えて成長しているのを見れるからである。

いつの間にこんなに大きくなったんだろう

その都度気づいたり、思ったりしていると思うのだけど、振り返って考えて見るとそれは「いつの間にか」という言葉に変わっている。

いつの間にか

食べられる野菜の種類が増えてきた

夕飯後、食べ終わった食器を片付けるようになった

夜寝る時絵本を読み終えるとすーっと眠るようになった(多分)

ちょっとした漢字を多分雰囲気で読めるようになった

これからいっぱいいろんなことができるようになって、その都度僕も感嘆の声をあげ、喜び、嬉しさを感じるのだろうけど、「振り返ったらいつの間にか」と思うことが増えていくのだろう。



2020年6月22日月曜日

ルーティン

僕が家事をするときは大抵近くにiPhoneがあり、youtubeやSpotifyで音楽を聴きながらということが多い。
僕が聴くものはブームがあるけれど、通年で聴いてるものはあまり変わることがなく、それは山下達郎だったり、緩めのヒップホップだったりする。

花さんとは2009年の9月に付き合いが始まって、気がつけば10年以上経っているのだけど、彼女はずっと僕のルーティンミュージックを聴き続けていたわけである。
僕がかけている曲を聴きたいわけでもないんだろうけれど、そんな日々を過ごしていた結果、この前はSLACKの曲を僕と一緒に口ずさんでいた。そんなに口ずさみやすいような曲じゃないんだけどな。

これがずっと一緒にいるってことなんだなって妙に嬉しくなった。

2019年12月27日金曜日

「あと5分」の集積

すべては『『あと5分」の集積だ』と思う。

朝、暖かな布団を抜け出して部屋をでる。ドアを閉めきると結露がひどいから、いつも少しそれは開いている。ひんやりとする廊下を抜けて、リビングへ。カーテンの向こうに少しだけ太陽の光を感じるけれど、それはまだ低い位置だ。だからまだカーテンは開けず、電灯をつける。
ガスストーブを点火すると、空間の少しの部分が赤く照らされる。洗面所へと行き、夜に干した洗濯物を確認する。除湿機をかけても乾きが悪くてげんなりする。
乾いたものを洗濯バサミから外してカゴにいれる。夏だったらこれらはすべて乾いているのに。

リビングへと戻り、洗濯物を畳む。しばらくすると花さんも起きてくる。そしてヤカンで湯を沸かす。彼女のルーティンだ。
二人で洗濯物を畳む。そしてそれぞれの収納棚へと仕舞う。じわじわと部屋が暖まってくる。
カーテンを開けると、光が差し込む。台所の床の埃がキラキラと光る。

ダイニングテーブルに座り、子供達の連絡帳を記入する。昨日あったこと、最近の様子、あんなことそんなこと。あったこと。
7時10分。

二人のこどものうち、どちらが先に起きてくるかは、日によって違う。
椅子に座らせて、たいていパンを食べさせる。そしてヨーグルト。
テレビはつけず、僕がYouTubeで音楽をかけている。小学校の時、掃除の時間にかかっていたクラシックの曲だったり、最近聴きこんでいるZORNだったり、山下達郎だったりする。
「どんな夢見た?」「昨日は保育園でなにした?」たわいもない会話。

理子はご飯を食べ終わると、お皿を台所へ運ぶようになった。特にこちらが促すこともなくできるようになり、成長を感じる。ご飯を食べ終わると、テレビタイムが始まるので、iPhoneで聴いていたYouTubeを消す。
7時40分。

玲も食事を終えると理子のそばでテレビを見るともなく見ている。
7時50分。
パジャマから洋服に着替えることができないままでいる理子のお尻を叩きながら、支度を促す。着替えと、タオルと連絡帳をカバンに入れるのに、異様に時間がかかる。

気がつくと8時13分。
「ほらほらもう13分になっちゃったよ」理子に言ってるのと同時に、自分にも言ってる。まだ自分も着替えていない。
花さんが寝室の布団を畳んでくれている。僕はクローゼットからTシャツ、ニット、パンツを選び取り、リビングへ戻る。リビングのドアのガラス部分が、曇って汚れている。朝日に照らされてそれがよく見える。拭きたいけどそれをしている5分がない。

風呂の掃除をする。浴槽と床にスプレーをしてスポンジで洗う。洗い流しているうちに、鏡のくもりが気になり始める。でもここにまで手を出したら、仕事に遅れてしまう。

風呂から出ると、歯磨きを始める。理子にも歯ブラシを渡すけれど、自発的に磨くことができない。テレビを見ていれば、消す。そしたらおもちゃで遊び出す。その間ずっと口の中で歯ブラシを弄んでる。だから歯ブラシはすぐにダメになってしまう。
「歯ブラシをくわえたまま歩いちゃだめって何回言ったらわかるんだ!」と叱責している自分が歩きながら磨いているのだから、説得力など少しもない。

8時40分。
自分の着替えが終わる。45分には出かけるモーションに入りたい。
あと5分。その5分で掃除機をかけたい。一番奥の部屋から順に、廊下、トイレ、洗面所、台所、リビング。掃除機をかけたそばから、また違うゴミが、ほこりが顔を出す。
昨日届いた荷物のダンボールを畳んで捨てたい。燃えるゴミは花さんがまとめてくれている。

8時48分。
まだ出かけることができない。理子も玲も靴下を履いていない。そして自分もだった。
僕は玲を保育園に送るために、まずエルゴをつけ、靴を履く。そして玲を抱っこして、上着を羽織る。同時に理子も靴を履いたり上着を着たりするので玄関はもう狭い。保育園の園庭の砂を、理子の靴が玄関まで運んできてしまうため、すぐに埃として溜まってしまう。あと5分あればほうきで掃くのに。

慌てて4人で家をでる。結局8時55分。花さんがゴミを捨てに行ってくれる。「いってらっしゃい」とマンション内で別れる。
抱っこした玲に、話しかけながら、時には歌いかけながら、保育園まで歩いていく。すると後ろの方から「パパー!」と呼ぶ声が聞こえる。理子と花さんが走ってくる。玲は足をバタバタさせて喜んでいる。

横断歩道まで一緒に歩く。理子とは手をつないでいる。信号のないそれを二人が渡りきるまで見届けて、僕と玲と、花さんと理子は、道路を挟んで平行に歩き出す。
「いってらっしゃい、楽しんできてね」と僕は声を張って言う。
そしてまた玲とお話をする。最近は明確に僕のことをパパと呼ぶようになったので、とても嬉しい。

保育園について、先生たちに挨拶して、検温と体に異常がないかのチェックをする。「変わりないです」と言えるありがたみを感じて、先生に玲を委ねる。
靴を履いて、園を出ると、イヤホンをして出勤するために駅へと向かう。

8時12分。
8時19分の電車に乗りたい。だけどそれはもう難しい。

あと5分あればあれをして、あと5分あればこれをして。あと5分。あと5分。
あと5分の集積で、結局なにもしないで終わる。
動き出せば2分で終わって、時間が押してもどこかで辻褄を合わせるのだろう。そんなものなんだろう。




2019年10月2日水曜日

タフなトラベラー


早朝の飛行機に乗るため、前夜はパジャマではなく洋服を子供達には着させた。一通りの準備を済ませると眠りにつく。
カーテンから漏れる光が、天井に独特な模様を作り出していて、そういったものを見るのがだんだんと日課となってもいたのだけど、これでお終いである。


目覚ましを何重にもかけていたのだけど、それよりも少し前に目が覚める。すでに花さんは起きていた。大人たちは言葉少なに準備をした。花さんたちはこれからシンガポールに行くので、それには不要なものを僕が持ち帰ることにした。

支度が終わると、玲さんはすんなり起きて、花さんの抱っこ紐に収納された。そして理子は僕が抱っこして部屋をでた。
スーツケースを持ってフロントで花さんがチェックアウトをする間、理子はソファでぐずっている。無理もないのだけど、こういったぐずりにこれからは花さんが一人で対応していくのかと思うと、タフだなと思わざるをえない。『旅をしている』というのが彼女を奮い立たせるのだろうか。

チェックアウトが済むと、やはりGRABでタクシーを配車した。早朝にもかかわらず、それはすぐに到着した。
運転手はものすごく若い。20代前半くらいの男性だった。車は新車のように清潔で、座席には GRABの文字が刺繍されていた。

車窓から見えるのはやはり建設中の工事現場ばかり。これ以上なにが必要なのだろうか。作ってから考えているのかもしれない。高速道路のようなところをひた走る。この道はパトゥ洞窟に行った時と同じだ。
そんなことを考えながら、花さんと旅を反芻する。マレーシアにはマラッカなど他にもみどころはあるのだけど、今回はクアラルンプールだけにとどまった。理子や玲さんのことを最優先に考えてのプランニングを花さんが組んでいたわけだけど、理子は出かけるということに対してのモチベーションが低い。部屋でYouTubeを見ている方が断然楽しいようだ。それは知らないところに行くのが怖いということなのかもしれない。
プールに行ったりペトロサインスで遊んだりしても、瞬間的には楽しんでいるようだけど、旅行は親についてきているだけ、という感覚なのだと思う。

玲さんもイヤイヤ期が始まっているので、これからの旅行の仕方はどうしていくのか、考えなければいけないのかもしれない。

そんな話を花さんとしていると、空港に到着する。数十分の乗車にもかかわらず、日本のそれと比べるとだいぶ安い料金だった。
まずはANAで僕の手続きを済ませる。4人でカウンターにいるのに、僕だけ搭乗することになるので、係りの人は不思議そうな顔をしていた。
その後、花さんたちはシンガポール行きの搭乗手続きを別の場所で行った。

空港内で店を見ている余裕というのもなく、そそくさと出国手続きを済ませる。荷物チェックなどはかなり適当に思えるほど簡易だった。こんなので大丈夫なのだろうか。
偶然にも僕たちの搭乗口は近く、直前のところまで一緒に行くことができた。マレーシアにやってきたときと同じ電車のようなものに乗る。ついこの前これに乗ってきたような気がするのだけど、と感慨に耽る。

そしてお別れの時はやってくる。外国にいるのにこうやって家族が離れることもあるんだなと不思議だ。理子はちょっと泣いていて、僕も離れるのは嫌だなと思う。そしてこれから数日とはいえ二人の世話をしながら外国で過ごすという花さんに、やっぱりこの人はタフな人だとも思う。

搭乗口で別れる。3人とも楽しんでねと言って後ろ髪を引かれながら歩きだす。少ししてから振り返ってみたけど、理子は泣き止んでいるようだった。花さんがなにか魔法の言葉を言ったのかもしれない。母親は子供を泣き止ませるものを持っている。


僕が乗る飛行機の搭乗口へ行くと、当然のことながら日本人が多くいて、安心した。そしてここでまた身体検査が行われた。今度は丁寧に行われている。
搭乗時間まで待っていると花さんからLINEがくる。それは音声で「パパだいすきだよ」と理子からのメッセージだった。

座席は花さんが気を使ってくれて、3人席の通路側を指定してくれていた。定刻通りに進んで、無事に飛行機は飛び立った。それと同時に僕は眠ってしまったのだけど、30分ほど経った時、凄まじい揺れで目が覚める。気流が悪いらしく、今までに経験したことがないくらいに揺れている。日本人CAさんが説明してくれていたのだけど、機長の指令でCAさんも業務を止めて着席してしまうくらい揺れている。備え付けのモニターで飛行機の運航状況を示す画面にしていたのだけど、どんどん高度を上げていくのがわかった。そしてしばらくするとどうにかこうにか落ち着いた。しかしそんなことが日本に着くまで数回あって、生きた心地がしなかった。
心を落ち着かせようとバラエティコーナーから水曜どうでしょうのヨーロッパリベンジ完結編を見てみたらなんと2話までしかなかった。がっかりして気分が落ちた。

結局それから到着までは寝ることはなかった。


成田は雨が降っていた。窓に雨が当たる。iPhoneの電源を入れるとLINEが届いている。花さんたちが乗った飛行機も無事に到着していたようだ。

その後入国手続きをし、荷物を受け取った。ちょうど時間よく二子玉川行きのバスがあったので、コンビニで納豆巻きとお茶とチョコレートを買って乗り込んだ。バス乗り場で対応していた係りの人は、マレーシア人のように見えた。『世界はつながっている』ということを妙に強く感じた。

4時過ぎにバスに乗る。空は曇っていたけれど、遠くにある建物のてっぺんが見えないということはなかった。マレーシアと比べると日本のほうが空気は澄んでいるようだった。
そして明らかに季節が変わったことを実感した。半袖だとむしろ寒いくらいだ。

結局家に着いたのは7時を過ぎていた。家まで帰る道中、松屋で牛丼の大盛りを買い家で食べることにした。旅の余韻なく、いきなり日常が戻ってきた。家には僕だけしかいないのだけれど。



これを書いているのは10月2日で、花さんは仕事に復帰している。それでもきっと頭の中ではもう次の場所を探して、どこかに旅をし始めているにちがいない。彼女はタフなトラベラーだからである。

2019年9月28日土曜日

あなたの最高の1日はここから


「 YOUR BEST DAY EVER BEINGS HERE」
この旅最後の行き先であるサンウェイ  ラグーンで見かけた看板に書かれていた言葉だ。
旅の大半が理子対応となっている昨今なのだけど、この日訪れたのもその最たる場所だった。動物園や数種類の屋外プールが併設されていて、ホテルやショッピングモールもある。超巨大施設である。
ホテルから GRABで配車したタクシーに乗って数十分。到着するとそこにはバスで乗り付けた団体客や、様々な国籍の人がいた。花さんはネットでチケットをすでに買っていて、オンラインで購入済みのレーンに並んだのだけど、係りの人がなかなか要領を得ない人で、なかなか発券されない。なんのためのオンラインなんだろうかとも思う。

チケットはリストバンドになって、手首に巻いてから入場した。少し汗ばむくらいの陽気になってきて、実にプール日和である。
しばらく歩くと冒頭の言葉に出会った。あなたの最高の1日はここから、みたいなとこだろうか。理子はうきうきが止まらない様子だ。

園内が広すぎて、どこから回ればいいのかよくわからなかったのだけど、動物園からスタートすることになってしまった。とはいえ、日本で見るよりも空いていたのでゆっくりと見ることができたのはよかった。

そしていよいよプールゾーンである。服の下に水着を着込んでいた理子は、ロッカーでの着替えなどをすっ飛ばして一目散にプールへ。花さんも同様だったので、僕は玲さんとパラソルの下で待機することにした。玲さんにも少し疲れがでていたようで、咳がでていたため大事をとってプールはやめることにしたのだった。
だだっぴろい波の出るプールに、客は10人くらいしかいない。しかも大人ばかりだった。まわりには流れるプールもあったのだけど、そこには誰もいなかった。
理子の様子を眺めながら、椅子に座ってまったりしていると、草の茂みからノソノソと大きなトカゲのようなものが歩いてきた。全長は70センチくらいはあったであろうか。動物園が併設されていることもあって、逃げ出したのか、そもそも放し飼いの君なのか、判断がつかなかったけれど、とくにどうすることもしなかった。

ある程度時間が経った頃、花さんと交代した。すぐ近くに子供用の数種類の滑り台があるところを見つけたので、そこに行くことにした。ここも僕らの他には1組の親子しかいなかったので、遊び放題だった。最初は怖がっていたけれど、一度滑ってしまえば楽しさを覚えて、自分から階段を上って行き始めた。あまりにも楽しそうに滑っていくものだから、僕もやってみようと思って登ると監視員に止められた。ちょっと恥ずかしい。

また花さんと交代して、というのを何回か繰り返してから、違うエリアに行くことにした。波の出るプールというよりは、浅瀬の湖のようなところだった。
ビーチチェアを陣取って、また泳ぎに繰り出す理子。

周りを見渡すと先ほどの場所よりも多くの人がいる。そしてこういう場所でも宗教の色が色濃く出るのだなと思ったのだけど、女性は顔以外のほぼ全身を覆った水着を着ていた。それは大人から子供までそうで、セパレートのものを着ている人などごくわずか。おそらく観光客なのであろう。男性はいたって普通の格好である。
そういえば、女性の格好も、ヒシャブで髪を隠す人もいれば、全身真っ黒で目の部分だけ肌が見えている人など様々だった。逆にパッと見で服装に宗教色が現れない人もいた。
肌の色も様々で、インド系の褐色から日本人よりもちょっと濃い、くらいの人までいた。

ペトロサインスの中にも祈祷する部屋があったし、僕たちの泊まっているホテルの天井には、イスラムの聖地を指す矢印が書かれていた。この国の当たり前を考えた時に、日本でこういった人たちは快適に過ごせているのか、ふと疑問に思った。空港には祈祷室があると聞いたことがあるけれど、日常生活レベルで対応できているのか。例えば仕事をしている女性がヒシャブをつけることを許されているのか。全身真っ黒の服を着た人を奇異な目で見たりしてないかなどなど。来年のオリンピックでは『オモテナシ』以前に彼らの普通を用意できているといいのだけど、と思う。


そんなことをぼんやりと考えていると、現地人ふうの男性がスマホで写真を撮ってくれという。彼はどうやら僕の隣のチェアで寝そべっている女性とともに、こっそりと映して欲しいようだった。なんだかあとで変なことに巻き込まれたくないなと思ったし、当然のこととして彼一人をバーストで撮影した。彼にスマホを返すとまんざらでもない顔をしてサンキューと言って仲間のところへ去っていった。ただ本当に撮ってほしかっただけなのかもしれない。

理子が花さんと戻ってくると、ご飯を食べた。理子はバーガーキングである。食事を終えるとすぐに浮き輪を持ってプールへ戻ってプカプカと泳ぐ。すっかりと食事はついでのものである。

散々遊び倒して17時だ。空が明るいのでまだまだいけそうな気もしてしまうのだけど、帰ることにした。やはりここでも GRABの登場である。ここにおいては、 GRABを利用する人向けの、空調つき待合所があった。すっかりと浸透したシステムのようである。
タクシーに乗って最後の車窓を眺めると、やっぱりどこもかしこも何かを建設中である。土地が有り余ってるのか、それともスクラップアンドビルドなのだろうか。経済を回すのに積極的ということなのだろうか。日本はすっかり遅れをとっているんだろうなと思わされる。


ホテルに着いて、一休みしているともう20時である。今日の食事はどうしようか?と花さんが言うので、僕は「もう一度ハッカレストランに行きたい」と言った。もう一度チャーハンを食べたかったのだ。
店に行くと、すでに屋根を開けた状態だった。席に案内されると「ハイチェア?」と聞かれる。理子用に椅子は必要か?というわけだ。お願いすると、なんてことない。大人用の椅子を2つ重ねて高くするという荒技だった。でも確かにテーブルに対してちょうどいい高さになった。
今回は鍋はやめて、チャーハンの他に、青菜炒めと豚の角煮と蒸しパンなどを頼んだ。もちろんビールも注文する。
旅行前に花さんは断乳していたので、アルコールは解禁されている。やはり一人で飲むのではなく花さんと飲む方が楽しい。しかしガラスが空になると注いでくれるのはカールスバーグお姉さんだった。見つけて注ぐまでが素早すぎる。

マレーシアで食べたご飯のなかで、やはりここが一番おいしかった。豚の角煮と蒸しパンのセットは絶品だった。玲さんに至っては、今回はお弁当パックを持たず、ここでの料理を食べてもらった。初めて食べる食材もいくつかあったのだけど、とくに問題なかった。

ホテルに帰ると、荷物の整理をした。翌日は超早朝の4時起きである。そして僕は日本へ、花さんたち3人はシンガポールへと行くことになっている。実に旅に貪欲な妻である。
疲れ切って眠る3人に対して、玲さんはやはりベッドの上を徘徊してしまう。そして最後の最後でベッドから落ちて大号泣してしまった。とりたてて別状はなかったけれど、心臓に悪い出来事だった。

長いながいマレーシア旅行が終わる。


ペトロサインス



知らない土地での生活に、そろそろ疲れが出始めていたのか、朝食後にもなかなか出かけようとしない理子。「楽しいところに行くよ」という言葉だけでの誘いにはもうなかなか乗ってこなくなっている。もう11時近くになっていた。
仕方がないので花さんは理子を抱っこして出かけた。僕は相変わらず玲さんを抱っこしている。
この日はスリアにあるペトロサインスというところへ行った。ざっくりと言えば石油会社が作った科学館のようなところで、その施設の間口からは想像できないくらい中は広かった。エントランスには自社の説明のような区画があって、料金を支払ったあと、中に入るのには丸いトロッコのようなものに乗っていく。
レールに沿って進んでいくと、暗いトンネルの中にジャングルのように草木が茂り、壁のモニターでいろいろなことを説明している。ナレーションが流れているのだけど、言語が理解できないので、勝手な解釈ではあるけれど、マレーシアの自然とペトロナスという石油会社の共存や、マレーシアの発展には我々が必要なんだ、という映像だろう。お金を払ったのにこういう啓蒙のための施設なのか?といぶかってしまうのだけど、そのトロッコを降りてから広がる世界はなかなかのものだった。

電気や宇宙、映像、恐竜、石油の採掘場を再現したような巨大施設。とにかく館内は広い。フロアが変わると全く違う施設に来たような気になる。展示物の説明パネルには現地語と英語と併記されているのだけど、理解はできない。だけど、直感的にどうやって楽しむのかが分かるようなものが多かった。体験型のものが多かったので、施設に入るまではずっと抱っこされていた理子だったけれど、お気に入りのサンダルのヒールをカンカンと響かせながら、あれはなに?これは?と興味深そうに遊んでいた。
僕のお気に入りは宇宙のフロアで、宇宙飛行士が訓練にでも使うような機械を試すことができた。座って手足を固定すると、とにかく360度ぐるぐると勢いよく回り出す。年甲斐もなく「ウワー!!!!」と叫んでしまう。しかし、途中からはこの状況が面白くなってきて笑い出してしまった。とても面白いものだった。
この装置の脇にはもちろん係りの人がいたのだけど、もうそういったリアクションを毎日見ているのであろう、僕のリアクションに対してはまったくの無表情であった。

その他にも、宙吊りになった宇宙服があり、顔のマスクのガラス部分がモニターになっていて、自分の顔写真をそこに移す仕掛けがあったりして。大人も子供も楽しめた。もしかしたら僕の方が楽しんでいたかもしれない。

だんだんと人の数が増えていって、それぞれの遊ぶものに対して群がる人数が当然増えていく。特に採掘場を再現しているエリアは、子供心をくすぐる巨大装置があって、そこにとにかくわんぱくな子供たちが集まっていた。
採掘を模したものなので、カゴのようなものに砂の粒を詰め込む。それを滑車の仕組みでロープで引っ張り、荷を上に運び、中身をあけて、また砂を入れて、というのを延々と繰り返す。
みんなが我も我もとやりたがる。もはや順番や代わり番こという概念が存在していない。言葉がお互いに通じないというのもあるのだろうけれど、これは子供たちに限ったことではなかった。
例えばエレベーターを待つとき、日本だと並ぶという行為が自然発生すると思うのだけど、それがない。思い返してみれば空港で電車に乗ったときもそうだった。
そういったわけで、親たちも子供のことを注意しないし、ただ遠くで見ているだけだった。

世界で負けてしまう日本人の絵を感じざるをえない構造が見えてしまったので、理子には負けるなとハッパをかける。それが良いことなのかは分からないけれど、せっかく自分の番が回ってきたのに易々と譲るなということを言ったわけである。


それぞれのフロアの濃度が濃いため、時間があっという間に過ぎていく。気がつけば2時だった。途中、軽食を食べれるところがあったので、そこでお弁当やドーナツを買って食べた。理子はチョコのかかったドーナツだったのだけど、どういうわけか温めてから渡された。当然チョコレートは溶けていて、口の周りはチョコだらけになってしまった。

施設はまだまだ続く。その後はレーシングカーの原寸大のものや、ゲームセンターにありそうなレーシングゲーム。とにかくありとあらゆるものが揃っていた。個室でのワークショップもある。
しかしその施設の多さに比例して、僕の疲弊度も増していった。10キロ近い玲さんをずっと抱っこして、かがんだり、なんやらしていたことに加えて、冷房の強さがこたえた。そういえばホテルの部屋もクリーニングされた後は空調設定が15度になっていた。なんなんだろう、この国は。


施設の最後の方で、ゲームのシムシティのように、街をつくるシミュレーションゲームがあった。海の近くに原子力発電所を作る、山の方に火力発電所などなんとなくやってみる。最後の最後で石油会社感を出してくるのは流石である。するとモニター内で上司のような女性がプレイヤーである僕に対して罵る。「YOU`RE SUCKED!!」
どうやら僕は街づくりを失敗したようだ。

その後ホテルに戻って休憩する。理子も疲れているはずなのに、こういうときにしか自由に見れないYouTubeを視聴し始める。僕の嫌いなプリンセスのユーチューバーの声をマレーシアで聞くことの悲しみを覚えながら体を休めた。

その後は、やっぱりプールである。もはや疲れることを知らない底なしの理子。僕もそこで飲むビールを励みに奮闘する。プールに併設されたバーカウンターでは、モアビア?と勧められる。サテは?とも。どうやらすっかり飲む人と認定されてしまったようだった。

その後、夕飯はホテルのラウンジで済ませ、またスリアに行き、伊勢丹で買い物をした。お土産らしいものをちゃんと買っていなかったのでそこで探すことにしたのだ。伊勢丹だから、ということもあるのだろうけれど、日本人がいっぱいいて、僕らと同じようにお土産を買い込んでいるようだ。いかにもお土産然としたものよりも、地元民が食べているようなもののほうが面白い。有名だというオールドタウンホワイトコーヒーも買う。

スリアを出て少し街を歩いてみると、CHANELや PRADAの店など、どこか東京の日常で見かける延長線のような街の景色に、自分がどこにいるのか一瞬見失いそうになる。明日で旅も終わって日常へ戻っていくのが不思議な気分である。

旅先での毎日が色濃く終わっていく。

2019年9月25日水曜日

うまがあう食事


朝起きて、窓から景色を眺めると、向かいのホテルのロータリーに黄色いスポーツカーが止まっていた。ボンネットには花束があり、それはちょっと置いておいた、というよりも、飾ってあるように見えた。
ホテルで結婚式でもあるのかもしれない。そんな風に思った。

この日もホテルのラウンジで朝食を食べた。続けて利用しているので、ホテルの人も親しみを込めた挨拶をしてくれた。少し離れた席では関西弁を話す中年のグループがいて、ここは一体どこなんだろうかと思う。

この日はまず洗濯をすることから始まった。4人分もあるので、すぐに洗濯物がたまってしまう。ホテルにも洗濯をしてもらうシステムはあったのだけど、キロ換算ではなく、アイテム数で料金が計算されてしまうので、どうしても値段が高くついてしまう。そういったわけで、イケアの青いバッグに洗濯物を詰め込んで、ホテル近辺にあるコインランドリーに行くことにした。
ホテルを出て、ファッションビル群を通り過ぎる。途中、セブンイレブンに立ち寄り、お茶を買う。シンガポールでお茶を買った時は、甘い紅茶のような味がして、全く求めていた味と違って閉口した、ということがあったのだけど、ここでは「おーいお茶」を買った。味はまぎれもなく「おーいお茶」だった。

歩みを進めていくと、だんだんと景色は雑多になり、華やかさがなくなり、生活臭がするようになっていく。建物は薄汚れていて、道端にはゴミが散らばっている。軒先ではなにやら原色のテントが張られて食べ物を売っている。なんだか異様に強い生命力を感じる。そんな『そちら側』からは、遠くに華やかな高層ビル群が見えるのだけど、今日もヘイズで曇っていた。

調べてあったコインランドリーに着くと、数台の洗濯機が元気よく回っていて、備え付けられていたベンチに座って待っている人の姿が見えた。
店の奥にはカウンターがあって、僕らが中に入って看板を見ていると、係りの人が話しかけてくれた。
話を聞くに、椅子に座って待っている人たちのように、自分でマシンを動かすか、係りの人に全部渡してやってもらうか選ぶことができるらしい。
僕らは係りの人にお願いすることにした。その場で重さが計られて値段を確認。終了時間を教えられるのかと思ったら、ホテルまで配送するサービスもあるという。「なんて素晴らしいシステムなんだ!」と僕らは当然のことのようにそれを利用させてもらった。「畳むか畳まないか」を何ども確認され、「畳まない」と突っぱねる我々だった。

一気に身軽になって、気分がよくなった。

仕事をひとつ終えると、セントラルマーケットに行くことにした。花さんが「 GRAB」というアプリでタクシーを呼ぶ。海外出張時にこれを使い、とても便利だったという。なぜなら、運転手と会話をしなくても確実に目的地に行けるし、直接のお金のやりとりも発生しないからだった。
そんなわけで、ここマレーシアでもそれを使った。設定が済むと、いまどのあたりまで来ているか、地図でわかるのも良い。

車は早々に到着し、乗り込むとそれは新車で、新しい匂いがする。最初の「ハロー」くらいの会話が終わると、すぐに目的地に向かった。無駄はなにもない。

セントラルマーケットは、バザールのようなもので、区分けされた場所に店が並んでいる。ざっくりと言えばお土産屋の集合体であった。
水色で可愛らしい建物の中には入ると、当たり前のように日本語がいろんな方向から聞こえてくる。中にはドクターフィッシュの水槽に足を突っ込むという店があり、そこでは日本人のユーチューバーらしき集団がいて、騒いでいた。トルコでドクターフィッシュをやったことがあったけど、その時見たものよりも3倍くらい体が大きい。

マレーシアのお土産はここで揃うといわれるだけあって、いろんなものが置いてある。バティックやなまこ石鹸、アクセサリー、お菓子。とりわけ花さんや理子が長居していたのは、お土産的ものではなく、地元民が食べていそうな、どちらかといえばスナック菓子の問屋のような店だった。ここでは店員のおじさんがすぐに袋を開けて、試食させてくれていたようだった。サービス精神が旺盛であるがゆえに、財布の紐も緩んでいく、といった感じだ。僕はアクセサリー屋で、祖父母にブレスレットを買った。ずっと前から欲しいと言われていたのだ。
また、別の店では、子供服専門店があり、花さんが値段交渉をして買い物をしていた。言われたままの金額では高いのである。店員も日本人とわかるとふっかけてくるようだ。なぜなら服には値札がついていない。勧めた挙句、買う直前になってもなかなか値段を言わないという徹底ぶりだった。結局いくらかまけることに成功したようで、理子と玲さんの分の2着を買っていた。
しかし全体をざっと見て回って思うのは、なんとなく同じような店が並んでいるように見えてしまうということ。同じようなものを同じように売っているので、なんとなく手に取っても買うまでには至らなかった。

マーケットを出てみると、道に沿って屋台が連なっていた。デザイナーのジミーチュウは
マレーシア出身ということもあって、安い、などという字面を見かけたのだけど、どう考えても偽物だろうという店構えのなかで様々なブランドの革製品が売られていた。そして日本語で「マスター!マスター!」と声をかけられる。

ここにはブランド品以外にもおもちゃなどもあり、アナ雪が目にはいった。似ても似つかない顔のエルサがくるくると踊っている。理子は食いついて見ている。カオスである。
陶器を扱った店があり、ただプリントされた柄の皿といったものたちだったのだけど、その柄や色味が可愛くて買おうかな、とも思ったけど、持ち帰るのが怖いと思って買わなかった。

屋台をぶらぶらと冷やかした後、昼食を食べに行った。マレーシアでチキンライスといえば南香飯店である。いわゆるチャイナタウンの中にあって、実に雑多な街のなかだった。地元民であろう人たちから観光客までもわんさかと人がいたけれど、運良くすんなりと入ることができた。
チキンライスの味を2種類と青菜炒めを頼む。玲さんにはお弁当パックを与えていたのだけど、我々が注文したものが届くや否や、それを食べさせろと「うー!んー!!」と主張した。実際与えてみるとパクパクとよく食べる。マレーシアでの食事にうまがあう玲さん。理子も負けじと食べるので、大人が食べる分がなくなってしまった。それでもその食欲を見ていたら、それでお腹いっぱいになってしまった。

食事を終えると、またGRABでタクシーを手配した。しかしなかなか来なかったので、流しのタクシーを使った。メーターには厳密に何セントという単位で表示されていたけど、値段を払うときになると、セントは端数と見なされたのか、お釣りはくれなかった。そういうものなんだろうか。

大人の買い物で体力を使うことなく過ごした理子は体力が有り余っているために、またホテル内のプールに行く。先日もみた親子がやっぱりいる。このホテルに滞在している以上、そういうものである。
理子と同じくらいの年齢の子が、お父さんと入っていて、我々が近づくとハローと挨拶をしてくれる。子供はどちらも恥ずかしがって隠れてしまうので、「ソーリー。シャイガール」と笑って話した。そんなことが数回繰り返された。

相変わらずのビールを飲み、プールを出る間際、先ほど話しかけられたお父さんに、訛りの強い発音で「どこから来たの?」と聞かれて僕は「ジャパン」と答えた。するとそのお父さんはブラジルから来たのだという。ちょっとした会話だったのだけど、よい国際交流の時間だった。

プールを終えて一休みすると、ホテルに近くにあるハッカレストランへと行った。花さん曰く「高城剛がリコメンドしていた店」とのこと。その店は外観は半屋外で、アジアの雰囲気があり、外国人受けしそうなところだった。僕らが店に入った時は7時を過ぎで、まだポツポツと席が埋まってるくらいのものだった。
注文はマレーシアだけど「鍋」とチャーハン、ビール。屋内ではエアコンが全開で付けられていることが多いので、こういった温かいものに飢えていたのだ。
この店にはどういうわけか、カールスバーグのボディコンシャスな服を着たセクシーなおネエさんがたくさんいて、ビールを飲み干すや否や、即コップに注いでくれた。飲みきってなくても注ぐのでなかなか休まらない。結局のところ瓶をお代わりしてしまったのは彼女たちの働きっぷりによるところなのかもしれない。

鍋は、調理されたものが運ばれてくるのではなく、店員さんが全てをセッティングしてくれた。それぞれの野菜を入れるタイミング、火加減調整など、僕らはすることはなかった。
玲さんはやっぱりチャーハンをいっぱい食べた。ポロポロ落としてはいるものの、食欲は衰えることをしらないようだった。僕らは鍋の温かく優しい味を堪能した。
そんなころ、突如屋根が自動で動き出し、頭上には空が広がった。理子が「ばあばにも見せてあげたいな」などと可愛らしいこと言う。
ほろ酔いで気持ち良く、さらにはこんなサプライズ的な仕掛けがあって、とても気持ちが良い。もしかしたら水にあたってお腹が痛くなるなんて心配もしていたけれど、1歳の玲さんも5歳の理子も我々も健康で過ごせている。とても良い。

すっかり2本目のビールも空いて、カールスバーグお姉さんが次のオーダーを促したけど、
しっかりと断って、会計し店を出た。すっかりもう9時を過ぎている。この日もやっぱり長い1日だ。