2024年10月10日木曜日

わたし

 朝、まだ慣れない2段ベッドの1階で目を覚ました。遮光カーテンが引かれた部屋は真っ暗で、

かすかな光だけがそのカーテンのまわりにぼんやりと浮かんでいた。

ベッドからなんとか這い出ると、寝る前に読んでいたスラムダンクを手に取ってリビングへと向かった。

リビングではパパが洗濯物を畳んでいて、ママは食器の片付けをしていた。彼らはすでに朝が始まってからしばらく経っているようだ。


「おはよう」と小さな声でパパが話しかけてきた。「おはよう」と私は返事をしてスラムダンクの続きを読み耽る。パパから何度か読むことを勧められて読んでみたもののしっくりこなくて、いまようやく読み進めることができている。山王戦は実にハラハラとする。


7時15分頃になると、「いい加減パンを食べなさい」と促されるのでしぶしぶ食べ始める。食べながら読もうとするとやはり怒られた。「これくらいで怒らなくなっていいじゃないか、自分だってスマホ見てるくせに」と心の中で思う。決して口に出してないのにパパは私にこういった。「パパは玲の連絡帳書いてんだよ」


パンを食べ終わるとパパに言われる前に着替えをする。昨夜のうちにコーディネイトを決めておいたから早いものだ。スカートを好んで穿いていたけれど、近頃はすっかり涼しくなってきたのでそれだと寒い。

パパとママがやたらと穿かせたがる黒いジーンズを選んでいた。

案の定それを穿いた姿を二人に見せたら見たことのないような顔でこちらを見てきて褒めてくれた。

「かっこいい!」「かわいい!」

いや、どっちだよ!と私は心のなかで二人にツッコミを入れた。

洋服のことでどうして二人はこんなにも一喜一憂するのだろう?


歯を磨き、新しいタオルを棚から取り出して顔を拭いた。

学校へ持っていくものを再点検し、時計を見るとまだ7時45分だ。もう少し漫画を読むことができる。

なにげなくタブレットの充電を見ると、夜のうちに充電していたはずが、全くされていなかった。数%しかない。

「昨日ちゃんと差しておいたのに!」と誰にぶつければいいのか分からない怒りを示すと

「ちゃんと差さってなかったんじゃないの?」と適当にパパが返事をした。

差したところ見てないくせに、憶測で言われて腹が立つ。


とりあえず出かける直前まで充電することにして、漫画を読んだ。怒っていても急速充電されるわけではないのだ。


8時1分。

ランドセルを背負って玄関で靴を履く。ひも靴を履くのももう慣れてきた。

「いってきます」と私が言うと「いってらっしゃい」とパパが言う。

家を出て階段を降りる。なんとなく視線を感じて見上げるとパパはまだ私のことを見ていた。


部屋にいるよりも外は格段に寒い。でもそんな寒さも気持ちがいい。

きっと今日も楽しい1日になるに違いない。

そう思いながら友達の家の呼び鈴を鳴らす。足音がかすかに聞こえ玄関のドアが開いた。

今日という1日に期待を膨らませてながら私は言った。

「おはよう!」