2017年11月30日木曜日

life is journey

花さんの誕生日は11月24日で、前日が祝日である。
「そのタイミングでどこかへ行こうか?祝日の翌日に休みを取れば土日とくっついて4日間は休めるよ」という会話がなんとなくされた時、
僕はどういうわけか、「韓国なんてどう?」と言った。
数年前の僕では考えられない発言だ。
花さんは首だけではなく、体ごと僕の方に振り返り「本当?」と満面の笑顔で言った。
ゴールデンウィークに渋滞が発生するような自然現象のごとく、
女性にとっての韓国旅行は心に響くようである。

それからというもの、新しいガイドブックを読み、旅ブログを読みふけり、テレビでの韓国特集を4度は見て、花さんは情報を蓄積させていった。僕の顔よりもブログの方を多く見ていたかもしれない。
そうして今回も、やはりしおりが作成され、出発日前日にラインで送られてきた。
経験値から言って、子連れで予定をこなすことなど不可能に近い。
3分の1でもクリアできれば良いと思う。しかし、しおりは希望であり、花さんの趣味なのである。実行されるか否かというのはそこまで重要なことではなかった。


11月23日。果たしてこの日は全ての予定を狂わせる残酷なほどに雨だった。
雨脚は弱まることを知らないようだ。
13時過ぎの飛行機に乗るために、9時過ぎには家を出ることにした。
スーツケース2つにベビーカーと理子。このセットで電車に乗るのは至難の技だ。そういったわけで、出し惜しみせず、渋谷までタクシーで向かった。今回の空港は羽田ではなく、成田だった。

配車したタクシーは、マンションのエントランスから少し離れたところに止まっていて、僕たちは雨に降られた。
そして、行き先を告げると不思議なルートで進み始めた。幸先が不安になる出だしだった。


雨の246は普段通り混んでいたが、思ったほどではなかった。渋谷駅で降りると、複雑怪奇な道順を辿って成田エクスプレスのホームへと向かった。
この街においてスムーズな動線など皆無だ。

ホームに着くと外国人観光者らしき姿が多かった。僕たちはチケットに示された号車を確認し、しかるべき場所で待った。
少し流線的なフォルムの車体のそれは定刻通りにホームへと滑り込んできた。
僕は2つのスーツケースを、花さんは理子を乗せたベビーカーを押して乗り込み、指定席に座った。
そして電車は走り出した。

理子は3歳という年齢で、一体いくつの電車に乗ったことだろう。


はっきり言って成田は遠い。渋谷から2時間近く要した。
空港に着くと、第3ターミナルへと向かった。今回の飛行機はLCCだった。
まるでそこは元倉庫だったかのごとく簡素で、むき出しの配管が寒々しい。
チェックインを済ませ、荷物を預けると、数分後に自分の名前が呼ばれた。バッグにデジカメのバッテリーが2つも入っていたのだった。

フードコートに行き、なんとか3人分の座席を確保すると、僕はロコモコ丼を、花さんはうどんを食べた。理子にはそれぞれのものを分け与えた。僕が人にハンバーグを分けるなんて、理子が生まれる前だったらありえない話だ。なんなら最後の一口すら理子にあげた。私も父なのである。

食事の最中、目の前に座っていた40歳くらいの女性二人の会話の内容がすさまじく、
花さんと一言も口をきけなかった。僕も花さんもその会話に聞き入ってしまったからであった。


出発の時刻が迫ってくると、会話の続きに後ろ髪を引かれつつ出国した。雨が降っていたからか、到着するはずの飛行機が遅れていた。僕たちはしばらく出発ロビーで待つこととなった。1.2年前と違って、欧米人の姿をよく見かけた。

30分ほど遅れて飛行機に乗り込んだ。その頃には雨は止んでいて晴れ間が見えていた。
窓際に理子が座り、真ん中に花さんが座った。韓国までは2時間半ほどかかる。3歳児というのは、その時間、空を見ていれば満足するようなおとなしい生物ではない。これは一般論でもあるし経験則でもあった。
シートベルトをする行為から拒否なのである。
「理子ちゃんシートベルトしない!」と声高に宣言をする。
しかし、その声を待ってましたとばかりに、花さんはカバンからポータブルDVDを取り出す。
この日に備えて購入していたのだ。しかも子供用のヘッドフォンまで買い揃えていた。花さんは抜かりないのである。

雑誌付録のDVDをセットしたが、モニターは実に沈黙を続けていた。
文字通りうんともすんとも言わない。
ヘッドフォンを装着した理子は「何も聞こえないよ」と苦情を申し立てる。
ポータブルのはずが、電源コードなしには再生しないようだった。
LCCの座席にはモニターなどついておらぬ。ましてやコンセントなども当然なかった。静かにヘッドフォンをテーブルに置いた理子は激怒した。そして怪獣になった。



怪獣を乗せた飛行機は気流の乱れもあり、遅れてインチョン空港に到着した。
平昌オリンピックが行われるため、空港内にはそれにまつわる展示がなされていた。
切符を買い、ソウル駅に向かう電車に乗った。当然のことのように車内には、我々の他にも日本人の親子が乗っており、海外に来たような気がしない。

電車内はWi-Fiが飛んでいるので、それでネットサーフィンをした。怪獣はyoutubeを手に入れたので普段の理子へと戻っていた。
ソウル駅に着くと、レンタルした(もちろん花さんが手配していた)Wi-Fiの機器を受け取り、外に出る。すると空気が一気に変わるのがわかった。とてつもなく寒い。だけどそれすら心地よく感じる。旅が始まる高揚感が勝るわけである。タクシーを拾い、ホテル名を告げた。セジョンホテル。それが我々が宿泊するホテルだった。

車窓からは近代的なビル群が目に入ってくる。東京駅のような建物。高層ビル。ハングル文字の看板。何車線もある道路は車で埋め尽くされていた。
ホテルは明洞にあった。韓国有数の繁華街である。
ホテルに到着し、チェックインする。1008号室。大きな窓からは、ソウルタワーが煌々と光る姿が見えた。

荷物を降ろし、荷ほどきをすると、早速食事をしに向かった。
時刻はすでに8時を大きく過ぎていたが、街は活気で溢れていた。やはり街中にも欧米人の姿が多く見られた。路上で売られた胡散臭いファッショングッズ。ジャンクでおいしそうな食べもの。それらが捨て去られとてもきれいとは言えない道。この街は混沌で成り立っているし、その場所にいる人達はそれを楽しんでいるようだ。

目当ての店は列ができており、入ることを断念した。昼からまったく食べていないのだ。
このままでは花さんが怪獣と化してしまう。花さんは早々にプランBを発動させ、近くの焼肉屋へと入る。店員は当たり前のように日本語を操る。掘りごたつのようなテーブルにつき、味付きカルビとサムギョプサル。チヂミ。そしてビールを発注する。韓国では日本で言うところのお通しのようなものが大量にテーブルに載せられる。これでお腹いっぱいになると言っても過言ではない。そして店によってキムチの味が全くと言っていいほど異なった。

しかし自分も歳をとったのだなと思うのだけど、肉をいっぱい食べることができなかった。

ビールの2杯目を発注したが、備え付けられた床暖房がお尻を温めると同時に酔いを深くさせていった。これぐらいで酔うなんて、どうしてしまったのか。
僕らのテーブルの接客をしてくれたおじさんは、「3人の写真を撮ってあげよう」と日本語でいうので、iPhoneを手渡した。するとまずテーブルに乗ったご飯達を撮り始める。要は SNSなのである。クチコミしなさいよ、というわけだ。
それから僕たちの写真を撮ってくれる。さぞかし満たされた顔が映った写真なのだろうと、おじさんが撮ってくれた写真を確認してみると、僕たちよりもテーブルに乗った食材のほうがメインに映っていた。実に商人である。

花さんは会計時、iPhoneをいじりながら店員に画面を見せる。するとあら不思議、値段が15%も引かれるではないか。
花さんはクーポン券を用意していたのだ。
実に旅慣れている。ここは日本か?と思わざるをえないほどの仕上がりっぷりである。

カムサハムニダ。
・・・カムサハムニダ。
軍配は花さんに上がったと言っていいだろう。


外に出ると、ご飯を食べてホクホクした体に冷たい風が吹きすさぶ。
本格的な旅が始まろうとしていた。

2017年11月29日水曜日

seoul

ソウルに行ってきた写真日記です。