僕たち一家は布団を敷いて寝ている。上野毛の家に住んでいるときは、花さんが一人暮らししているときから使っていたセミダブルのベッドで寝ていたのだけど、それは新居に引っ越す際に処分していた。
ある休日、朝ごはんを済ませて一息ついた頃、僕は布団を畳むために寝室へと行った。寝室からリビングは廊下で繋がっていて、開け放たれたドアから、花さんと理子の姿が見えた。ドアという枠にトリミングされたその二人の姿は、なんていうことのない日常だったのだけど、何故か目が離せなくなってしばらく眺めていた。
赤い椅子に座った花さんの膝に、ちょことんと乗った理子。携帯電話を見ているのか、二人とも俯き加減なのに、すごく楽しそうな雰囲気が廊下を隔てても伝わって来る。
幸せというのはこういう瞬間に何気なく触れることができることを言うのかなってふと思った。
その幸せの構図の中に入れてもらうべく、僕はさっさと布団を畳んでリビングへと廊下を歩いた。二人の顔が、パッと前を見て僕を捉える。いい休日の始まりだった。
『理子、今日はどこへ行こうか?』
珈琲の匂いがかすかに残り、まだ暑さの残るある日。
2017年10月15日日曜日
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